夢が醒めなくて

その夜、希和に謝った。

「今まで、待たせてごめん。不安にさせて、悪かった。」
希和はぷるぷると首を横に振ったけれど、その瞳に涙が浮かんだ。

「義人さんが、」

俺が手を伸ばしてティッシュを一枚取ると、希和は言葉を止めて、少しだけ顔を突き出して目を閉じた。

……涙を拭うのは俺の役目、か。
こみ上げてくる心地よい笑い。
なのに、俺も胸がつまって、力を入れてないと泣いてしまいそうだ。

「義人さんが毎晩こうしてかまってくれてたから、そんなには不安じゃなかった。よ?」
希和はそう言ってくれたけど、俺がじっと目を覗き込むと、慌てて目を伏せた。
「……ちよっと嘘。不安になる要素ない、って頭ではわかってるつもりやったけど、やっぱり……淋しかった。」

俺は軽く息をついた。
何となく、ほっとした。

「気ぃ使ってくれてんろうけど、嘘つく必要ない。俺は、ずーっと希和に求められてたいんやから。」

すると希和は、困ったように首を傾けた。

「何か、義人さんが言うと、Hな意味?って、勘ぐってしまう。」
「まあ、否定はせんけどな。」

そう言って、希和を腕にかき抱く。
うれしそうに身体を預け、俺に頬をすりつける希和が、たまらなく愛しい。

「おばあちゃんになっても、愛してくれる?」
「もちろん。……希和も。子供が産まれても俺のこと、二の次にせんといてくれる?」
「……たぶん大丈夫。子供はお母さんが育ててくれるらしいから。私には、結婚しても大学でちゃんと勉強してほしいんやって。」
「大学も受験もどうでもいいのに。」
「うん。でも、お母さんの気持ちもわかるから。お言葉に甘えさせてもらうことにした。でも義人さんと同じ大学は無理かも。」
「別にかまへんやん。どうせ俺、来年は大学行かんし。今年中に博論提出して課程博士やし。それより学部は決めたんか?」

俺も由未も目標も定めないまま、友達の受験に釣られてなんとなく受験することになったけど、希和もそうなるとは思わなかった。

「うぅん。決めてないけど……。」
そう言って口をつぐんだ希和。

「何?てっきり、日本史か国文やと思っててんけど、違った?」
文学部ならたいていの大学にあるし、別に国立大を目指す必要もないだろう。

「それも好きなんだけど、今、ちょっと勉強したいのは仏教なの。孝義くんのお家の古い史料を見せてもらってるとね、宗祖と歴史と後年の教義の矛盾点が気になって……」

希和は堰を切ったように話し出した。

……仏教……って……つまり……そういうことか?