でも、父親は首を横に振った。
「いや。坂巻さんだ。以前、孝義くんとの縁談を持ちかけてくださった時に、希和子はうちの嫁のつもりで育てていると断ったら、その際、希和子の籍を移す時には坂巻の家に受け入れさせてほしいとお願いされたんだ。」
……何だ、それ。
聞いてない。
イロイロ、初耳だ。
あれ、何年前だ?
そんな話になってたなんて。
「……結局、俺も希和も、あなたがたの手のひらの上で踊ってたんですね。」
そうつぶやいたら、父親は狡猾なオヤジらしくにんまりと笑った。
やっぱりこのヒトには、一生、敵わないかもしれない。
「お母さん。春秋くんと孝義くん、帰るって……あ……」
飛び込んで来た希和は、俺達の様子を見て、慌てて謝った。
「お取り込み中、ごめんなさい!」
「あら、いいのよ。……帰らはるの?お見送りするわ。」
母親はそう言って、希和と一緒に出て行った。
「坂巻さんには、いつ正式にお願いに上がるんですか?」
残った父親にそう尋ねると
「そうやなあ。次の大安にお前から話を聞くやろ、その次の大安にお前と希和子が揃って私とお母さんに挨拶したとして、さらにその次の大安に坂巻さんにお会いできそうならお願いしてくるけど。」
「……大安の日にしか動いてくださらないんですね?」
ちょっと笑ってそう言った。
もちろん、父親なりの愛情で、俺達の未来にケチがつかないように暦にこだわってくれてるのはわかるけど。
「いや。入籍は天赦日にしなさい。大安よりいい日やから。今からだと結納もあるから来月の天赦日には間に合わないだろう。9月だな。天赦日と一粒万倍日が重なるイイ日だ。」
父は手帳を見てそう宣言した。
「……わかりました。けど、それ、坂巻さんには言わないほうがいいですよ?確か、あそこの教義では、暦日は迷信だとバッサリだったと思います。」
「そうなのか?いや、でも、暦は大事やから……」
父は、それでもぶつぶつとこだわっていた。
しばらくして戻ってきた母親と希和は、両手に花を何本かずつ持っていた。
美しい青紫の、桔梗の花。
もう、そんな時期なのか。
母親は、愛しそうに桔梗の下葉を活け花用のハサミで取り除いてから、錫の一輪挿しに飾った。
希和もまた、同じように下葉を取ると、ちょっと悩んで信楽焼の小さな寸胴を選んで、桔梗を飾った。
希和の選んだ信楽焼の素朴な温かさは、洗練されてるとは言えないけれど、野の草花の強さと優しさにはよく合った。
「綺麗やな。俺の部屋に飾っていい?」
希和の顔がぱああっと輝いた。
たぶん、もとよりそのつもりだったのだろう。
……何も言わなくても、気持ちが伝わってくる。
家族が穏やかな笑顔を交わし合う。
たぶん父親も、母親から聞いて知っているのだろう。
桔梗の花言葉が、変わらぬ愛、だということを。
「いや。坂巻さんだ。以前、孝義くんとの縁談を持ちかけてくださった時に、希和子はうちの嫁のつもりで育てていると断ったら、その際、希和子の籍を移す時には坂巻の家に受け入れさせてほしいとお願いされたんだ。」
……何だ、それ。
聞いてない。
イロイロ、初耳だ。
あれ、何年前だ?
そんな話になってたなんて。
「……結局、俺も希和も、あなたがたの手のひらの上で踊ってたんですね。」
そうつぶやいたら、父親は狡猾なオヤジらしくにんまりと笑った。
やっぱりこのヒトには、一生、敵わないかもしれない。
「お母さん。春秋くんと孝義くん、帰るって……あ……」
飛び込んで来た希和は、俺達の様子を見て、慌てて謝った。
「お取り込み中、ごめんなさい!」
「あら、いいのよ。……帰らはるの?お見送りするわ。」
母親はそう言って、希和と一緒に出て行った。
「坂巻さんには、いつ正式にお願いに上がるんですか?」
残った父親にそう尋ねると
「そうやなあ。次の大安にお前から話を聞くやろ、その次の大安にお前と希和子が揃って私とお母さんに挨拶したとして、さらにその次の大安に坂巻さんにお会いできそうならお願いしてくるけど。」
「……大安の日にしか動いてくださらないんですね?」
ちょっと笑ってそう言った。
もちろん、父親なりの愛情で、俺達の未来にケチがつかないように暦にこだわってくれてるのはわかるけど。
「いや。入籍は天赦日にしなさい。大安よりいい日やから。今からだと結納もあるから来月の天赦日には間に合わないだろう。9月だな。天赦日と一粒万倍日が重なるイイ日だ。」
父は手帳を見てそう宣言した。
「……わかりました。けど、それ、坂巻さんには言わないほうがいいですよ?確か、あそこの教義では、暦日は迷信だとバッサリだったと思います。」
「そうなのか?いや、でも、暦は大事やから……」
父は、それでもぶつぶつとこだわっていた。
しばらくして戻ってきた母親と希和は、両手に花を何本かずつ持っていた。
美しい青紫の、桔梗の花。
もう、そんな時期なのか。
母親は、愛しそうに桔梗の下葉を活け花用のハサミで取り除いてから、錫の一輪挿しに飾った。
希和もまた、同じように下葉を取ると、ちょっと悩んで信楽焼の小さな寸胴を選んで、桔梗を飾った。
希和の選んだ信楽焼の素朴な温かさは、洗練されてるとは言えないけれど、野の草花の強さと優しさにはよく合った。
「綺麗やな。俺の部屋に飾っていい?」
希和の顔がぱああっと輝いた。
たぶん、もとよりそのつもりだったのだろう。
……何も言わなくても、気持ちが伝わってくる。
家族が穏やかな笑顔を交わし合う。
たぶん父親も、母親から聞いて知っているのだろう。
桔梗の花言葉が、変わらぬ愛、だということを。



