夢が醒めなくて

終宴間際に、弁護士の堀正美嬢が近づいてきた。

「竹原くん。あちらの弁護士さんとの手続きが終わりました。これで円満に契約終了。」
2年以上もの間、俺を縛っていた鎖がようやく解けたらしい。

「ありがとう。さんざん迷惑かけて、ごめん。でも、今後も何かあったら、正美ちゃんにお願いしてもいい?」
そう聞いたら、正美嬢は満足そうに笑ってうなずいた。

「もちろん。てか、こちらこそ、よろしく。あ!そうだ。だいぶ前に希和子ちゃんに聞かれたんだけど~、契約書が浮気を防ぐ抑止力になるか、って。……婚前契約書、作る?」

……希和……ホントに正美嬢に相談してたのか。
気恥ずかしいけれど、希和の気持ちが俺にはたまらなくかわいく感じた。

「そやな。相談してみるわ。……また、すぐお願いすることになると思う。よろしく。」
そう言ったら、正美嬢はうれしそうに笑った。

正美嬢は最初から、希和の味方になってくれてたっけ。
たぶん、これからも希和を助けてくれるだろう。
俺が正美嬢の敵にならないように、肝に銘ずるよ。


その夜、帰宅してすぐに両親に事の次第を報告した。
「お父さんにも、お母さんにも、ご心配をおかけしてしまって、申し訳ありませんでした。」
そう言って頭を下げたら、お母さんが
「希和ちゃんにも!」
と、わざわざ主張した。

「そうですね。……希和には後で報告します。」
そう答えてから、改めて2人にお願いした。
「つきましては、これからのことを相談したいのですが。」

希和と、結婚する。
そのためには、まず、うちの戸籍から希和の籍を抜かなければならない。
まだ未成年の希和は、一旦、誰かの籍に入る必要があるだろう。
何人ものヒトの手をわずらわせ、いくつもの手続きを済ませなければ、本当の意味で希和を手に入れることはできない。

母親から聞いてるのか、父親も察しているらしく、
「続きは、大安の午前中に、改めて話しに来なさい。」
と、言われてしまった。

……いや、まだ結納とかじゃないんだけど……それとも、結婚の承諾をもらうために挨拶に行くのも、大安のほうがいいのか?

「……わかりました。」

そう返事すると、父親の表情がゆるんだ。

「希和子の籍を移す先は、もう決めてある。」
「え?」

用意周到な父親の言葉に驚いたけれど……まあ、母親があれだけ子供子供と騒いだら、父親が考えないわけないか。

「天花寺(てんげいじ)家ですか?」
一番頼みやすいし、今後のつきあいもあるから、俺は恭匡(やすまさ)さんにお願いするつもりだった。