夢が醒めなくて

今、目の前で繰り広げられている景観は、まさにそんな状況じゃないだろうか。

さやか嬢のお母君の保有株を譲渡された原さんの息の掛かったインテリやくざな株主達は、怒鳴ることはなかったけれど、威圧感と理路整然とした弁護士顔負けの論調で、さやか嬢の競争相手を糾弾し続けていた。

「これ、いつまで続くの?」

2時間を超えるとさすがに飽きてきて、原さんに小声で尋ねたら
「彼が音を上げるまで。10年分の資料が揃ってますので、あと半日分ぐらいですかね。」
広辞苑ぐらいの分厚いファイルをちらりと見せて、原さんはそう言った。

……勘弁してほしい。
たぶん、俺以上に、さやか嬢の従兄はそう思っているだろう。


原さんから、票の確保の報告を受けたのは、株主総会の2週間前だった。
議決権行使書による事前投票で過半数以上の票を得ることができたそうだ。
脅迫に近い確約もあったらしいが、とりあえず勝った。

だから今日の株主総会は、単純に当日出席株主の決議投票で終わると思っていたのに……終わらない。
他の株主もうんざりしてるし、さやか嬢のお父君にいたっては、身体をまっすぐ保ってることも苦しそうだ。

……俺も、早く帰宅して、希和を安心させてやりたいのに……。

「本当の目的は、彼に自ら辞任させることではなく、今後、十文字のお嬢さんにたてついたら怖いですよ……と、周知させることです。彼と癒着して甘い汁を吸っていた役員への牽制と。……泰然と構えてらしてください。」
原さんにそう言われ、俺は一方的な罪状認否を聞いてるふりをした。

13時前に、昼食のために一旦、総会は休止した。
「……懇親会、延期になるんちゃう?」
総会の後で予定されているパーティーの心配をすると、原さんは携帯に目を落として言った。

「そうでもなさそうです。今、あちらの陣営が事の収束を計って調整を始めたようです。再開されたらすぐに事態が動きそうですよ。予定通り、他役員の議決も済ませて懇親会に移れそうです。」
「他役員って、むしろそっちのほうがそう簡単にいかないだろ?」

……そう言ってみたけど、原さんの顔に答えがハッキリ出てた。
今さら、か。
とっくに、手を回してるんだろうな。

「さやかちゃん、もう一生、原さんに頭上がらないね。」

俺もだけど。

そう言ったら、さやか嬢は困ったように目を伏せた。

……女の子の反応だ。
どうすんの?これ。
さやか嬢のアフターケアまで、原さん、ちゃんとしてくれるの?

なーんて聞けるわけもなく、ただ、斜め後方の原さんを見上げた。

原さんはさやか嬢をガン無視して、俺に柔らかく微笑した。