夢が醒めなくて

「お母さん。」

目の前にしゃがみこんで、呼びかけた。

母親はぼんやりと俺に視線を移し、ぐぐっとかおを歪めた。

泣く!

「ごめんな。親不孝して。」
自然とそんな言葉が口から飛び出した。

母親は、うるうるした赤い目でじっと俺を見て、ふるふると首を横に振った。
「希和ちゃんが、孫を産んでくれるもん。でも、早く欲しくなっちゃった。……作って。」

「……せやな。十文字の件は、原さんに丸投げして、希和と電撃入籍しちゃおうかな。」

そう言ったら、母親は無理に笑顔を作った。

「阿呆やねぇ、ほんま。順番なんか前後したっていいのに。義人は、変なとこで生真面目やわ。……でも、もう二度と大切なヒトを逃したり、傷つけたりしないようにしなさいね。」

「そのつもりです。」
そう言ってから、恐る恐る聞いてみた。
「子ども達は、機嫌よく遊んでましたか?喧嘩してませんか?」

母親の笑顔に温度がこもった。
「ちっちゃい子たちはすぐ打ち解けたわ。みんないい子ね。えーと、光くん?彼は内向的なのね。弟の薫くんと桜子ちゃんが、つきっきりでお世話してたわ。……桜子ちゃんは光くんが好きなのねえ。」

「へえ。光くんもちっちゃい頃は、さっちゃんさっちゃん言うてたから、両想いかな?」
内心おもしろくない気もするけど、あくまで他人ごととしてそう言った。

でも、母親はフフッと笑った。
「違うと思う。光くんは霞を喰ってる仙人みたい。薫くんがマザコンって揶揄してたわ。薫くんのほうがずっとちゃんと桜子ちゃんのことを好きだと思うわよ。いい子ねえ、薫くん。やんちゃ坊主に見えて、ずーっと光くんの世話を焼いて、ずーっと桜子ちゃんを見てるの。」

母親の話に、ほほえましい光景が浮かぶ。
仲良くやってんだな。

「幸せそうで安心しました。」
そう言ったら、胸がいっぱいになった。

まあ、実際のところ、何の心配もないんだけどな。
夏子さんと、旦那さんが桜子をちゃんと大事にしてくれてることはわかってる。
……でも、何もしてやれない俺にできることは、遠くで幸せを願うことだけだから。

「それより、お母さん、うちのお姫さんが寝ぼけてストリップしようとしてんだけど。」
「希和ちゃん?今日はいつもより強めに縛ってたから、苦しいのかしら。膨張色の総絞りやから、太く見えるかもって気にしてたの。全然大丈夫やのにねえ。……どれどれ。」

母親は希和の名前を呼びながら和室へと向かった。