夢が醒めなくて

さやか嬢の手綱(たづな)を完全に掌握した原さんは、人脈を駆使して暗躍し始めた。

俺には報告しか上がってこないけれど、完全に脱帽だな。

「……正直、生きた心地しないです。」
同行してる啓也くんがそう言うぐらいだから、修羅場も多いのだろう。

怖い物見たさで、俺も興味はあるけれど……

「でもまあ、よく勉強しといて。今後のために。……もちろん、そんな機会ないようにまっとうな運営してくけど。」
そう言って啓也くんの肩をポンポンと叩いた。

「……はあ。」
自信なさそうな啓也くんの声と表情が、かわいかった。

たぶん啓也くんは原さんのようにはなれないだろう。
それならそれでいいさ。
俺が守ってやる。
もちろん、頼りにもさせてもらうけど、な。



そうして、春うららかな日曜日。
恒例の園遊会が今年も賑やかに開かれた。
珍しく希和は気合い充分。
……どうやら、希和なりにさやか嬢に対抗意識を燃やしていたらしい。
かわいいじゃないか。

「どう?……太って見えへん?」
美容師さんに髪のセットと着付けをしてもらった希和は、わざわざ庭に俺を探して見せに来た。

希和の選んだ着物は、桃色と白で大きく流水模様に染めわけた総絞りだった。
野暮ったくなりそうな……というか、七五三で子供が着てそうな着物だが、そこに金銀黒赤とプラチナ箔で大きな花模様の刺繍を大胆に施してある。

いわゆる「辻が花」とも違う。
作家モノと言っても通用しそうな豪華な大振袖に変貌していた。
帯は金襴の亀甲柄を大きな文庫に結っている。

「……希和が、姫って呼ばれるのわかる気がする。」
ただ「かわいい」とか「きれい」と言ってやればいいのに、ついそんな風に言ってしまった。

「どういう意味?」

不安そうな希和が、また、かわいくってかわいくって!

「思いつく限りの褒め言葉を並び立てても足りひんわ。……早く、脱がせたい。」

耳許でそう囁いたら、希和はぶわっと赤くなって、慌てて逃げて行った。

……そう、そのほうがいい。
希和の姿が目に入ると、さやか嬢についていなければいけないことが苦痛で仕方ないだろう。

携帯が鳴った。
『義人さん。十文字のお嬢さんがお見えです。』
受付からの連絡を受けて、啓也くんが知らせてくれた。

「ありがとう。今、行くよ。」

観念して、さやか嬢を迎えに出た。