夢が醒めなくて

せっかくなので、原さんと啓也くんと一緒に飯を食った。

「十文字のお嬢さん、どうされたんでしょうね。金曜はめんどくさいぐらい元気やったのに。」
啓也くんの素朴な疑問に、原さんは不自然なぐらい無表情だった。

……逆に怪しい。
いつもなら言葉遣いを注意するだろうに。

「えーと、原さんが送ってくれたんだよね?……まさか、お持ち帰り、した?」
半分冗談、半分本気でそう聞いた。
すると原さんは、さらりと否定した。
「いいえ。その日にうちにお帰しいたしましたよ。」

……まっすぐ送ってはいないわけだ。

「え!もしかして脅してビビらせたんですか!?」
啓也くんの目が輝いた……よっぽどさやか嬢が鼻持ちならなかったんだろう。

でも原さんは、ニヤリと笑ってとんでもないことを言った。
「まさか。悦んでましたよ。声が枯れるほど。」

啓也くんは絶句した。

……さやか嬢、ミイラ取りがミイラになっちまったか?
ハニートラップをかけるつもりだったんだろうに、返り討ちに遭ったらしいな。
お気の毒。

「大丈夫?」
薬とか使ってない?
暴力はふるってないよな?
てか、さやか嬢に逆恨みされないか?
ご家族に泣きつかれても面倒だぞ。

言葉にできない俺のいくつもの懸念を、原さんは一笑に付した。
「土曜の朝、寝込みを襲われたのは私ですよ。失礼ですが、全く躾のなってないお嬢さんだ。僭越ながら2日間、口の利き方を指導させていただきました。……蜘蛛の網に自ら飛び込んで来たんです。自業自得でしょう。」

……怖い。
怖いよ、原さん。
俺、女じゃなくてよかった……。

「正美先生が聞いたら、大喜びで同人誌のネタにしそう……」
啓也くんのつぶやきに、俺も心から同意してうなずいた。



翌日のランチに現れたさやか嬢は別人のように神妙だった。
……いったい何をどうすれば、ここまでヒトが変わるんだ。
下世話な興味は尽きないけれど、藪をつついて蛇を出すのは愚策だろう。
俺達は、事務連絡に終始した。

「なあ、俺を介すより、直接原さんと相談したほうがよくない?明日からランチに呼んでいい?」
別れ際にそう聞いたら、さやか嬢は絶句して赤くなった。

マジか!

驚いて見てると、今度は狼狽して顔を背けて足早に行ってしまった。
蚊の鳴くような小さな
「はい。」
という返事を残して。