夢が醒めなくて

希和は俺を見て、にこーっと笑った。
……かわいくて、かわいくて……希和の笑顔だけで俺は幸せに満たされてしまう。

「ありがとう。啓也くんのことも、照美ちゃんのことも、美幸ちゃんも!ずーっと気にかけて、見守って、助けてくれてるから……私、負い目を感じなくてすんでるんだと思う。うれしい。ありがとう。大好き。愛してる。」
希和はそう言って、珍しく自らキスしてくれた。

かわいい希和。
希和が喜んでくれるなら、何だってしてやるよ。
ずっと笑顔でいてくれ。

俺、がんばるからさ。
……愚鈍な二代目と笑われても、社員も、家族も、幸せにしたい。



翌日は、啓也くんを送ってから、天花寺(てんげいじ)の恭匡(やすまさ)さんに書を習いに行った。

「希和子ちゃん、芯が通ったね。」
何も知らないはずなのに、恭匡さんは希和の字を見ただけで、そう言った。

「えー?俺は?俺は?」
半紙を見せてそう聞いたら、恭匡さんはニタリと嫌な笑いを浮かべた。
「義人くんは、ちょっと頭打ち?……まあ、己の限界を知ることは大事だよ。自分を過信するより、ずっといい。」

……いやいやいや。
絶対、何か聞いてるだろ。

原さんか、父親か知らんけど、恭匡さんに情報流しすぎ。
まあ、それだけ俺が頼りないってことかもしれないけど。


「お兄ちゃん。あんまりお母さんに心配かけないでね。」
由未にはそんな風に怒られた。

「ああ。ごめん。由未も心配してくれたんか?」

そう聞いたら、由未は眉毛を釣り上げて怒った。

「心配ちゃうわ。怒ってるん。さやかさん、かなり出来るヒトよ?ぶりっ子してるだけで。騙されてへん?」
なるほど、由未もさやか嬢と一緒に宗和のところで茶を習ってたっけな。

でも、今さらそんなことで怒られても苦笑しか出ない。

「大丈夫。最初から彼女のしたたかさはわかってるから。お母さんには言えんかったし、気を揉ませてるけど。」

由未はムーッとむくれて、
「希和子ちゃんかて、嫌やんなあ?いつまでも。」
と、希和に話をふった。

希和は、ちらりと俺を見上げてから
「うん。嫌。」
と、キッパリ言った。

……由未や母親に責められても平気だけど、希和に言われるとつらいわ。

「ごめん。もう少し待って。」
としか言えない自分が、やっぱり情けない。
頭打ちだなあ、確かに。



帰る道々、希和が俺の腕にきゅっとしがみついてきた。

「さっきはごめんなさい。」

胸に何とも言えない温かいモノが広がる。