夢が醒めなくて

それは、まずい。
お母さん、また泣いちゃう。
どうしよう……。

オロオロしてると、春秋くんが指摘した。
「ふーん?てっきり希和子ちゃんが変なのは、このせいやと思っててんけど……他にも問題あった?これ以上に、ショッキングな事件。先輩、浮気した?」

ジロリと孝義くんが春秋くんを睨んだ。
慌てて私は手を振った。

「違う違う。たぶんそんな暇、ない。」
「じゃあ、何や?」

孝義くんが真面目な顔でそう聞いた。
……この瞳に弱いなあ、と思う。
変なヒトやけど、孝義くんには妙な迫力とカリスマ性が確かにある。

「先月からずっと気になってた。2人の問題に立ち入ったらあかん思て、聞くの我慢してた。」
「喧嘩やったら犬も食わんし……どうしようもない過去の話なら時間が解決してくれるしね。」

孝義くんの言葉に補足するように言った春秋くんの言葉がグサッと突き刺さった。
涙がポロッとこぼれ落ちた。

「あ……泣いた。」
思わず自分でそう言っていた。

そう言えば、私、ずっと泣いてない。
ショックなはずなのに、てか、今でも胸の中のもやもやが消えてないし、苦しいのに……不思議と泣いてなかった。

……それだけ、義人氏に心の距離を置いて……甘えてないってことかもしれない。
抱きしめられても、キスしてもらっても、抱かれても、冷えた心は温まらなくて、私、ずーっとお人形になってたからなあ。

「……はは。」
何故か、孝義くんが笑った。
春秋くんも、顔を歪めて孝義くんと肘でつつき合って笑った。

「何で笑うのぉ?」
ずるずる泣きながらそう聞いたら、春秋くんが言った。

「だって、希和子ちゃん、俺らには泣きついたことなかったやん。先輩にばっかり泣きついて。……やっと心を開いてくれたんかな、って。」

そう言われて、心底びっくりした。

「そんな風に思われてると思わんかった。2人とも、ものすごく大切なお友達やのに……施設で一緒に育った兄弟姉妹たちより、たぶん家族より、ずっと近い存在やのに……大好きやのに……」

そう言ったら、もう涙が止まらなくなった。
丸5年の間、右も左もわからない、場違いな学園生活を支えてくれたのは春秋くんと孝義くんだった。
2人がいろんな軋轢から私を守ってくれたから、私は「姫」と揶揄されるほど伸び伸びできてるのに。

思わず私は、手を伸ばして、2人の腕をぎゅーっと握った。