夢が醒めなくて

寒いと思ったら、雪が降り出したみたい。
しんしんと、静かに降ってじわじわと積もっていく。
雪のように、私の心にも、飲み込めない悲しみが積もっていく気がした。

義人氏は、淡々と事実だけを言った。
そして、私の様子を見て、ため息をついた。

「ごめん。ショックを受けて当たり前やと思う。十文字の件が片付いたら、このことを話すつもりやった。でないと俺自身もいっぱいいっぱいになりそうで……。」
「……うん。」
やっと相づちを打った私に、義人氏は多少ホッとしたらしい。

義人氏が、ずーっと私を騙し続けたまま結婚に持ち込んだとは思えない。
たぶん義人氏自身も、桜子ちゃんの存在を後から知って相当ショックやったやろうし。
でも……わかるけど……

「希和。俺は……」
「……うん。」

やっぱり、何も言えない。
ごめん。
今は、無理。

時間が欲しい。
全てを受け入れられるか、自信がない。
無理、かもしれない。

でも……それでも義人氏が好きだから……
それだけは、もう、どうしようもないから……



私たちは何も変わらなかった。
……表面的には、だけど。
昼間は、今まで通り、ほとんど言葉を交わさない家族でしかなかった。
私は相変わらず孝義くんや春秋くんと「受験勉強」という名の遊びに興じていたし、義人氏はさやかさんと親密に会議を重ねていた。

夜中に私から義人氏を訪ねることはできなくなったけれど、そんな私を放置するような愚行を義人氏がおかすわけもなく……むしろ毎夜かならず私に逢いに来てくれた。

ただ抱くだけじゃなく、お庭の梅を観に行ったり、こっそり夜のドライブに連れてってくれることもあった。
夜明けの琵琶湖も、夜明けの海も、美しさよりも淋しさを覚えた

すぐ隣に義人氏がいても、私は自分から手を伸ばせなくなってしまっていた。
ただ、義人氏が手を差し伸べてくれるのを、抱き寄せてくれるのを待つだけ。
こんな自分が嫌なのに。
言葉にならない、モヤモヤがずっと渦巻いていた。



3月半ば。
十文字の社長が辞意を表明した。
次期社長の候補は2人。

10年以上閑職ながら重役のポジションを与えられている社長の甥っ子。
そして、西日本有数の大企業令息を婚約者に持ち、自身も入社以来破竹の勢いで業績を上げる社長の娘。

……社員のほとんどがさやかさんを支持していたけれど、株主総会で票を持つ役員達はみんな甥っ子を傀儡にすることを望んでいる。
そんな状況だということを、私は週刊誌や孝義くんから教えられた。

「婚約者、ね。……お母さん、週刊誌を読まないといいなぁ。」
「……いや。婚約者とか書かれてしもたら、親類縁者からお祝い届くんちゃうか?」

ギョッとした。