夢が醒めなくて

「希和のことは好きすぎてあかんわ。ずっとこうしてたい。……このまま一緒に寝ようか。
私を抱いたまま、義人氏はそう言った。

「このまま?妊娠しちゃわへん?」
慌ててそう聞くと、義人氏はニヤけた。

「希和が妊娠したら、すぐ結婚しような。」
……ダメだ。
義人氏、頭にお花咲いてる。

「さやかさんは?いいの?」
言いたくないけど言った!

「……それまでに何とかする。」
義人氏はそう決意したらしく、怖いぐらい強い目で空を睨んだ。 



2日後、義人氏は熱を出した。
……孝義くんほどは鍛えてないから、まあ、しょうがないね。



二学期がやってくる。
生徒会役員の春秋(はるあき)くんは、夏休みからずっと忙しそうだったけど、これから体育祭と文化祭までは超スーパーハードな毎日を送ることになりそうだ。

私たち一般生徒もまた、応援合戦のマスゲームや文化祭のクラスの発表の準備が始まる。
始業式前の何となく浮かれた教室で、孝義くんだけはいつも通りマイペースに読書をしていた。

「あの……孝義くん……」

チャペルへ行く前に、意を決して義人氏とのことを言おうとしたら、孝義くんはサラリと言った。
「ああ。何も言わんでいいで。何となくわかるから。おめでとう、ってゆーとくわ。」

そりゃわかるよね。
結局、一週間以上何も連絡しなまま始業式を迎えたんだもん。

「……ごめんなさい。」
心からの謝罪しかできない私に、孝義くんは苦笑した。

「謝る必要もない。最初からこうなることはわかっててんから。……あの時、希和子、どんなに怖い想いしても、あのヒトの前でしか泣けへんかったやろ。」

そう指摘されて、私は首を傾げた。
あの時?
いつ?

孝義くんは、読んでいた古い本をパタンと閉じた。
「何や、自覚なかったんか。……俺も春秋もわかってたで。あのヒトにとって希和子が特別なことも、希和子があのヒトにだけ甘えたり泣きついたりできることも。せやし気にせんでいい。……まあ、ずいぶん遅くまでかかったから、あわよくば希和子が嫁に来ればと淡い期待はしたけどな。」

「……私じゃ、とても大寺院の奥さまは勤まらんと思うよ。」
苦笑してそう言ったら、孝義くんは真顔で首を横に振った。

「お前がよかったんや。……なあ、希和子に娘が生まれたら、今度こそ、うちに嫁がせてくれへんけ?孫でもいいわ。」

気の長い話……。

「なんで?」
「高子(たかいこ)さまが望んでる。それだけで理由としては充分やろ?」
孝義くんはそう言ったけど、やっぱりよくわからなかった。

「とにかく、これからも俺らは何も変わらんから。気にせんでええ。」
本当に今までと何も変わらない口調だった。