夢が醒めなくて

やばい。
絶対やばい。

今はヤケクソでも、この坂巻くんに甘やかされたら、普通に希和、陥(お)ちるだろ。
……だから、こいつが怖かったんだよ。

ずっとこうなることを恐れてた。
こうして並んでいても、俺の立場でも苦笑してしまうぐらい、2人はお似合いだ。

敵わない……。
敗北感を噛み締めて、再び俺は歩き出した。
老兵は去るのみ、か。
たまらないな。

母親に頼まれた火熾しに取り掛かろうとしたが、既に朝秀くんが汗をかきながら炭を熾してくれていた。
「……ダメでしたか。」
俺の顔を見るなり、朝秀くんはそう言った。

「あの2人、つきあうって。」
事実だけを伝える無機質な声が、自分でもおかしかった。

「……そっか。ま、先輩、ふられたモン同士、仲良くしましょ。」
朝秀くんは図々しくそう言った。

いやいやいや。
「俺、別にふられてないし。」

何も言ってない。
言えないんだから、今は。

「それゆーなら、俺かて、別にふられてませんよ。状況判断して、告白せず逃げただけですから。」

……なるほど。

「同じ、か。」
そうつぶやくと、朝秀くんは苦笑してうなずいた。
「ま。いいじゃないですか。先輩は兄妹、俺は親友。一生、虎視眈々と、生ぬるく見守っていきましょ。」

……何だ、それ。

「君、あきらめてないんか?」
意外な気がした。

「あきらめましたよ、今は。でも、何年かたったら状況は変わるじゃないですか。本人同士が好き合ってても事情で別れることもあるし。……最終的に、希和子ちゃんが幸せならそれでいいんです。俺の出番があるかないかは、神のみぞ知る、ですよ。」
朝秀くんは鼻歌でも歌い出しそうな口調でそう言った。

達観してるなあ。


日が暮れる頃、父親が帰宅した。
バーベキューは既に終盤戦。

既にビールで上機嫌の朝秀くんのお父さん、つまり陶芸家の朝秀冬夏氏も交え、宴もたけなわとなった頃、坂巻くんが希和の手を引いて、うちの両親のもとへと行った。
父親も母親も事態を察知して、気遣わしげな視線を俺に向けた。
希和は、うなだれていた。

「希和子さんと正式におつきあいさせてください。」

坂巻くんに肩を抱かれる希和なんか、とても見てられない。
なのに、目をそらせない。

……胸が……痛い。




「……意外と要領の悪い子だったのね。馬鹿ねえ。」
バーベキューの後片付けをしながら、母親はさんざん俺を罵った。

「鳶に油揚げさらわれる、って、まさにこんな感じ?……希和ちゃん、もう高校生なんだから悠長にかまえてないで、猛アタックすべきだったのよ。無駄に肉食系に生きてきたくせに、何で肝心なところで草食系になっちゃったかなあ?」