夢が醒めなくて

坂巻くんは、憮然として言った。
「それこそ、先輩にあやまられても。……てか、あいつ、追い詰められて、いっぱいいっぱいみたいですけど。……先輩、見合い相手と別れる気ぃないんですか?」

ギクリとした。
……確かに、十文字さやか嬢のことがネックになっている。
めんどうな契約のせいで、拒絶することができない。
俺は曖昧に笑ってごまかそうとした。

ら、坂巻くんは舌打ちした!
そして、坂巻くんは身を翻して、茶室の入口へと向かい、庭に出てきた。

「坂巻くん?」
「……そーゆー態度が、あいつをどれだけ傷つけてるか、わかってませんよね?もう、いいです。今はピエロでも悪役でもいいです。あいつの望み通り、縁談を進めて、がっつりつきあいます。」

坂巻くんはそう言って、庭の奥へとズンズン進んでく。

マジか! 
いや、待て、早まらないでくれ。
君にやる気になられちゃ、困るって!

慌てて坂巻くんを追いかけた。

坂巻くんはしばらく無言で歩いてたけど、途中で振り返って聞いてきた。

「ホタルブクロが咲いてるの、こっちでしたっけ?」
「うん。でも今やったら、桔梗も綺麗やけど……」

そう言ってみたけど、坂巻くんは前のめりでずんずん進んで行ってしまった。
この調子で押し倒しちまうんじゃないだろうか。


ピタッと坂巻くんが足を止めた。

「ホタルブクロ、まだ先やけど。」
後ろからそう声をかけたけど、坂巻くんは何も言わずにすぐ右側の藪をかき分けて入って行く。

「え?何で?どこ行くん?」
びっくりしてる俺を完全無視して、坂巻くんは藪の向こうへと進んで行ってしまった。

……これ、追いかけるべきなのか?
てか、半袖のシャツでこんなと突っ込んでったったら、あちこち切ったり、かぶれるぞ。

途方に暮れて、とりあえずはホタルブクロの咲くエリアへ進んだ。
希和は、いなかった。
……やっぱりいないじゃないか。
坂巻くんに騙されたとは言わないけど……わけわかんねーな。

とりあえず、桔梗が咲いてるあたりに戻ってみるか。
広すぎる庭を呪いつつ、道を少し戻ってみる。

分岐点で、胸に言いようのない不安を覚えた。
桔梗より、坂巻くんを探すべきかもしれない。
……こっちの方向へ行ったんだよな。

さすがに藪掻きはできないけど、少し遠回りな小道を進んだ。
あ。
希和のハンカチが落ちてる。
少し濡れてる。
泣きながらココを通ったのか?

足取りを早める。
気が焦る。
まずい気がする。

希和をかっさらわれてしまう。

いつの間にか、俺は走っていた。