夢が醒めなくて

茶室の入口ではなく、庭に面した縁に回った。
障子は開いていたが、ガラス戸は閉まっている。
今日は蒸し暑いからエアコンを入れているのだろう。

覗くと、坂巻くんの背中が見えた。
希和は、いないようだ。

俺はガラス戸をノックするように軽くこぶしで弾いてから、開けた。
振り返った坂巻くんに尋ねた。

「坂巻くん。希和、知らん?」
「……さっき一旦戻ってきたけど、わけわからんことゆーて、すぐ飛び出して行きましたわ。」
坂巻くんは憮然としていた。

「わけわからんこと……もしかして、坂巻くんに告白でもした?」
なるべく穏やかに冷静にそう聞いてみた。

俺を睨んだ坂巻くんの頬が少し赤くなった。
「あんなもん、告白ちゃいますわ。」

……まあ、確かに、俺へのあてつけなんだろうな。

「坂巻くんとつきあう、とでも言った?」
ハッキリ言って、坂巻くんに惚れてない希和が「好き」とは言うはずがない。

坂巻くんは苦笑した。
「縁談、進めて欲しいって言われました。」

ギョッとした。
希和?
つきあう、通り越して、縁談なのか!
……これだから処女はめんどくさい……いや、かわいいけどさ。

「そう。悪かったね。」
俺も苦笑して、そう返した。

ら、坂巻くんの表情がスーッと変わった。
「……あいつを追い詰めたんは、あなたですか?」

いやいやいや。
何もしてないし、何も言ってないぞ。

「何も。」
ぷるぷる首を横に振ったけど、坂巻くんは疑わしげに俺を見ていた。

……まるで、希和の番犬だな。
希和を守ってくれてるのはありがたいけど……坂巻くんも、めんどくさい!



「それで、坂巻くんは希和に何て返事したん?」
そう聞いたら、坂巻くんはくしゃっと短い髪をかきむしった。

「オカスゾ。」

「へ?」
うまく聞き取れなかったかな?
俺は首を傾げて坂巻くんをまじまじと見た。

「……すみません。言葉が過ぎました。『あほか。犯すぞ。』と言ったら、飛び出して行きました。」
坂巻くんは真っ赤になって頭を下げた。

思わず笑いそうになってしまって、慌てて表情を引き締めた。

冗談のつもりだったんだろうけど、今の希和には通じないか。
笑い事じゃないよな。

……希和、びっくりしただろうな。
男性不信に陥ってたりして。

「いや。俺に謝らんでも。……急にわけわからんこと言われて、坂巻くんもびっくりしたやんな。ごめんごめん。」

まあ、急じゃなくて、ずっと希和は坂巻くんにつきあうって返事したかったらしいけど。