夢が醒めなくて

「で?朝から変なんは、今日、孝義に言う気ぃか?つきあうん?」

朝秀くんの言葉に俺は固まった。

少し間を置いて、希和の小さな声が聞こえてきた。
「……うん。夏休みまでにはちゃんと言おうと思っててんけど……なかなか勇気が出なくて……」

勇気?
坂巻くんとつきあうための勇気?
……なんだよ、それ。

希和。
マジで、坂巻くんのこと、好きでも何でもないやんか。

同じことを朝秀くんも感じてるらしい。

「無理せんでいいんちゃう?なあ、わかってる?つきあうって、手ぇつなぐとか、一緒に帰るとか、映画観るとかちゃうで?孝義、普通に、がっついた男やで?」

「もう!義人氏みたいなこと言わんとって!……何で、すぐそうなるの?」
……久しぶりに「お兄ちゃん」以外の呼び名で呼ばれたことに胸熱だな。

「いや、それ、普通やろ。……てか、抱かれる覚悟ないんやったら、やめといたら?最初は、ちゃんと好きなヒトとつきあったほがいいって。」
朝秀くんの言葉に、俺はうんうんと何度もうなずいていた。

「最初は、っていう考え方が、嫌。……生涯1人がいいの。義人氏にはさやかさんがいるし、さやかさんと破談になったとしても……これからもいっぱい女の人、できはるやろから。」

愕然とした。
希和の中に、俺、ちゃんと居るじゃないか。
てか、俺がこれからの生涯を希和だけだと約束したら、俺のモノになるのか?
……いや、信じてもらえないだろうな。
でも、もし、本気で希和だけだと思ってることをちゃんと伝えられるなら……

過ちを繰り返したくない。
俺はもう二度と、一番大切なヒトを不安にさせたくない。

「希和。」
書架の陰から出た。

まさか俺がいるとは思わなかったらしい。
「え?」

朝秀くんはそう声を挙げ、希和は……真っ赤になって、俺から顔を背けて、猛ダッシュして書斎を出て行ってしまった。

「……逃げた。」
まさか逃げられるとは思わなかった。

ボーッとしてる俺に、朝秀くんは言った。
「先輩!追いかけて!希和子ちゃん、やけくそになってる!やばいって!」

「追いかける?……マジでか?」
思わず舌打ちしたけど、朝秀くんに睨まれて、仕方なく俺は書斎を出た。


家の中に希和にいないようだ。
茶室に戻ったのかな。

「義人。そろそろ、火ぃ熾してぇ。」
母親がキッチンからそう声をかけてきた。

「わかったー。希和、知らん?」
一応聞いてみたけど、
「お茶室でお勉強してるんじゃないの?邪魔しちゃダメよ。」
と、釘を刺された。

……邪魔って……勉強の、だよな?

2人の仲の邪魔をするな、っていう意味じゃないよな?