夢が醒めなくて

「ダメ。絶対ダメ。契約違反よ?それ。」
十文字さやか嬢は、思っていた以上にしたたかなやり手だった。
ビジネスパートナーとしては頼もしいが、むしろ足元をすくわれる恐怖すら感じる。

せめて秘書の原さんにだけは相談したいことが山ほどあるのだが、契約書をチェックしてくれた専属弁護士1人のみにしか情報を漏らせないルール。

まあ、原さんはそれでも察知してるらしく、黙認してくれているようだが。
「わかってるって。……てか、お父さんの検診、どうやった?」

さやか嬢とは、不本意ながら、ほぼ毎日逢っている。
互いの本社が近いので、昼飯を食いながらの秘密会議を続けている。
当然のように、俺とさやか嬢はつきあっていると思われている。

「……微妙。せめて薬だけでも飲んでくれるといいんだけど……」
さやか嬢はアンニュイに目を伏せたあと、気を取り直して顔を上げた。

「ま。心配したってはじまらないわ。それより、彼女。元アイドルの美幸ちゃん、あまりよくない情報入ってきた。」
え!?

「見つかったん?」
「ううん。でも何となくお察し、って感じ。」

そう言って、さやか嬢は封筒を俺に渡して立ち上がった。

「じゃあ、また明日。」
……明日も会うのか。
うんざりして、儀礼的な笑顔さえ向ける気になれず、俺は封筒に目を落としたまま手を振った。


さやか嬢の残した封筒には、プリントアウトした画像が一枚だけ入っていた。
6人の女の子の写真と簡体文字。
中国語だ。

明らかに偽名の中国風の名前と……数字は、番号と、身長?スリーサイズ?
単位が違うのでわからないが、金額ではなさそうだ。

人身売買そのものではないのかな?
中国系の店で働いてるということか?

写真の美幸ちゃんは、とても希和と同い年には見えなかった。
いや、小学生の頃から色気のある大人っぽい美人さんだったけど、今の美幸ちゃんは痛々しい。

アイドルとして売れてた時も作り笑いと過度な媚びに心配したけど、これは、もう、笑うことすら諦めたかのようだ。
変な薬とかキメてないといいんだけど。

他の5人の子逹も、顔色が悪かったり、表情がうつろだったり、明らかに下手な整形手術顔だったり……どう見てもまともな店とは思えなかった。


早速、個人的に専属契約を結んでいる優秀な弁護士に連絡する。
『はいはいはい。』
電話の向こうでバタバタガチャガチャと音がする。

いつ電話しても忙しそうな堀正美嬢は、それでも俺の頼みをいつも快く優先させてくれるありがたいやり手の弁護士先生だ。