夢が醒めなくて

聞けば、祇園祭ということで、まだ、夏休みにはいってないのに小学校はお休みだったそうだ。

しかも5年生は林間学校で3日間いないらしい。
じゃあ、6年の3人は……

キョロキョロしてると、いた!
林というにはお粗末な木々の木陰に座って、希和子ちゃんが読書していた。

夏の日射しが、葉っぱを通り抜けて、まるで光のシャワーのように希和子ちゃんに降り注いで見えた。
絵画みたいだな。

何の本を読んでるんだろう。
ずいぶんと古そうな本だ。
革の装丁がポロボロになってて、希和子ちゃんの手も服も赤く汚れてるように見える。

なのに、希和子ちゃんは恍惚として見えた。
あんな顔、普段、見せてくれないのに。
何となく、本に嫉妬しそうになってる自分に気づいて苦笑した。

不意に、希和子ちゃんが顔を上げた。
「何、読んでんの?」
ちょっとホッとして、そう聞きながら希和子ちゃんに近づいた。

「こんにちは。……小説です。たわいもない。」
そう言って、希和ちゃんは俺に本の装丁を見せてくれた。

「川端康成?たわいもない、か?」
一応、偉大なる文豪じゃないのか?
ノーベル文学賞受賞作家だよな。

苦笑してると、希和子ちゃんは言った。
「少なくとも、少女小説は、たわいもない美しい夢物語ですよ。」

……少女小説は、さすがに読んでないので何も言えなかった。
でもまあ、代表作「伊豆の踊り子」からも類推できる、か。

「それは?『古都』?舞台は京都?奈良?」
「京都です。生き別れになった双子の姉妹が、祇園祭で偶然遭って仲良くなるんです。」
「あ~。なるほど。ベタやな。でも、ピッタリやな。時期的に。」

希和子ちゃんはうなずいて、本を閉じた。
「みんな、いませんよ。照美ちゃんは林間学校、美幸ちゃんはお母さんとお出かけ、啓也くんはプールに行ってます。」
「そうなんや。」

……不思議と、全くガッカリしなかった。
むしろ心が弾んだ。
みんなと一緒だとあまり話してくれない希和子ちゃんと、やっとゆっくり話せる。

うれしいけど、ここで2人きりはまずいかな。
あらぬ誤解を周囲に与えたくない。
「じゃあさ、談話室いこうか。」
希和子ちゃんは黙って俺を見て、それからうなずいた。


「あんなとこに座ってて、蚊ぁにさされへん?」
そう聞くと、希和子ちゃんは小さな機械をポケットから出して見せてくれた。

「蚊の嫌う周波数の音が出てるそうです。今のところ大丈夫みたいです。」

あー、スマホにもそんなアプリが入ってたな。