夢が醒めなくて

「お土産、ありがとう。何やろ。広島やったら、紅葉饅頭?」
気を取り直して受け取った紙袋をあけてみた。

中にはさらに白い袋。
朱色で印刷された文字は「上 厳島神社」。

え?
土産?
いや、これって……神社の神札だよな?

中身は、和紙で包まれた本物の神札。
「また、すごいのを授かってきてくれたんやね。ありがとう。……一番、御利益があるって聞いたんか?」

女の子からのお土産で、お守りとか絵馬とか根付けはもらってきたけど、神札ははじめてかもしれない。
厳島神社なら、御神衣守が有名だと思うのだが……

「厳島神社の祭神は3人の女神様やそうです。義人さんにぴったりやと思いました。」
希和子ちゃんはそう言って、ひらりと身を翻して、軽やかに走って戻っていった。

残された俺は、呆然と立ち尽くした。
えーと……今のは……どういう意味だ?
嫌味なのか?
いや、そんな陰険なこと、わざわざしないよな。

え?
じゃあ、いったい?

……わからん。


お札を持ったまま新快速のホームへ行くと、ちょうど電車が滑り込んできた。
タイミングよかったな、と電車に乗る。
隣の車両に、さっきまで一緒に飲んでいた小門がいることに気づいた。

移動して合流しようとして……携帯の画面を見ている小門の柔らかい表情に見とれた。
奥さんからのメールか、光くんの写真でも見てるんだろうか。

いい顔してるよな。
自分が淋しい想いをした分、小門は家族を大切にして生きていくのだろう。
うらやましい、と思った。

それにひきかえて、俺はどうだ。
本気で愛して一生一緒にいたいと思ったヒトには逃げられ、面倒じゃない女の子達と一時的な快楽を享受するのみの根無し草だ。

さっき希和子ちゃんに渡された御札が何となくずっしりと重たく感じた。



「ふふ。私も飲んじゃった。」

行きつけの料亭というか、料理宿のいつもの部屋に案内されて入ると、れいはしどけなく脇息にもたれたまま俺を見た。
頬だけじゃなく、目も赤い。

「お待たせ。なんか、あった?泣いた目ぇしてる。」
数日前に次の大劇場公演の集合日だと言ってたはずだが、今日、京都に来たというのはプライベートで遊びに来たのだろうか。
相手は、仲間か、タニマチのおばさまか、男か。

「別に。酔って腫れたんじゃない?義人は逆にあまり酔ってるように見えないけど。」
「途中で醒めたみたいやわ。俺も何か食っていい?」
どう見ても泣いた後だろうとは思ったけど、言う気はないらしい。

「私もー。鮎飯食べたい。」
「いいねぇ。うるかで、飲み直すけ?」

鮎の臓物を発酵させたものを、うるかと言う。
ここのうるかは、塩があまり多くなくうまく熟成させてるので気に入っている。

「うん。濃いーの。飲ませて。」
なんとなくエロく聞こえたのは気のせいじゃないだろう。
腕を伸ばしてれいを抱き寄せると、れいの唇が誘うように少し開いた。

「……あとで、な。」
軽くキスしたけど、酒臭かった。

お互いさまなのに。