夢が醒めなくて

「さっきの朝秀(あさひで)くんだが……お父上は、陶芸家の?」

無事にお詣りを終え、振り向かずに渡月橋を渡った後、朝秀くん母子と別れて、俺達家族は昼飯に行った。
せっかくなので、行きつけの料亭でゆっくり料理に舌鼓を打っていると、父親が希和にそう聞いた。

「はい。そうらしいです。そのうち人間国宝だそうです。」
希和はさらりとそう言った。

……陶芸家……朝秀 冬夏(とうか)氏の息子さんか。
なるほど。
陶芸家としても超有名だけど、組合の役員に名を連ね、メディア露出も多いやり手の人物だ。

「まあ。朝秀先生の。……うちにもあるわよ。とても繊細な季節の花の絵付けが好きで、集めたの。」
母親がそう言うと、父親もうなずいた。
「会社にもある。チャリティーで買わされた。……そうか。見覚えがあると思ったら、お母上は祇園の舞妓だった……」

へえ~。
そっちのほうもやり手ってわけか。

「3人めの奥さんだそうです。」
不機嫌そうに希和がそう言った。

母親は眉をひそめ、父親は苦笑した。
「確か、最初の奥様のご子息が跡を継ぐつもりで修行してらしたな。」

なるほど。
複雑そうな背景だ。
そんなめんどくさそうな家に希和はやらん!……て、早過ぎるか。



翌日は、毎年恒例の園遊会だった。
母親は、希和にまた新しい振袖を誂えていた。
そして母親自身も毎年この園遊会は必ず着物を新調して、父親が囲って世話をしている女性達を迎える……のだが……

「ねえ?今年はどなたもいらっしゃらないみたいなんだけど……義人、何か知ってる?」
いつまでたっても件(くだん)の女性が来ないらしく、母親は俺にそう尋ねた。

「いや。……あ、でも、祇園の女将とは別れたんちゃう?……そういや上七軒のおかあさんとこも……もしかして、お父さん、外のヒトらを整理してはるんかも?」
半信半疑でそう言ってみた。

母親は信じられないらしく首を傾げていたけれど、しばらくして、ぽつりと呟いた。
「でも確かに、毎日、家にいてくださる時間が増えたわよね。家族旅行の計画も立ててくださってるみたいだし。……これも、希和ちゃんのおかげなのかしら。」

ああ。
そうかもしれない。
あの父親が、慣れない学校行事や、母親のバーベキューやお茶会に付き合ってて、しかもけっこう楽しそうなんだもんな。
希和を迎えることで、父親もまた、より良い方向に変わったのかもしれない。

「義人も、夜遊びも外泊も激減してるし、……希和ちゃんは、我が家にイイ風を吹かせてくれたのね。」

母親はそう言ってほほ笑むと、父親に連れ回されてお客さまに紹介され続けている希和を救いに向かった。