夢が醒めなくて

大学が始まっても、用事を済ませると、ほぼ直帰。
「希和ちゃんが来てくれて、ほーんとよかった。お父さんも義人も別人みたい。まさか家族でこんな風に過ごせるなんて。」

母親はよほどうれしいらしく、毎日のように、ピクニックだ、お茶会だ、バーベキューだ……とはしゃいでいた。 
おかげで、俺は面目躍如の機会を何度も与えられ、希和との間に生じた壁は少しずつ感じなくなっていった。


そして、迎えた希和の入学式。
両親も俺も、新入生代表として立派な挨拶をする希和がかわいくて誇らしくて……泣き過ぎだろってぐらい泣いてしまった。

俺にとっては、3年前まで6年間通った母校なので、教職員だけじゃなく俺を覚えてる生徒もかなりいる。

式の後、わっと囲まれてちょっと焦ったけれど、ちょうどいいので
「妹をよろしく。虐める奴がいたら助けたってな。」
と、希和のことをアピールしといた。

……本当は男子生徒に、希和に手を出すなと言いたかったけど、さすがに大人気(おとなげ)なさすぎるかと我慢した。
まあ、言わなくてもわかるよな?

希和は、順調に中学生活をスタートさせた。
……最初のうちは慣れない電車通学だけで、ぐったりしていた。

見かねて朝のラッシュだけでも避けさせてやりたくて、俺が車で送ったり、父親が出勤する車に同乗させたりしていたが……そのうち慣れたらしく、普通に電車で通学するようになった。
まあ、なんだかんだ理由をつけては、俺は車で希和を送迎したがったけど。



4月の2週めの土曜日、希和の十三詣りに出かけた。
俺の時にも、由未の時にもいなかった父親までが、うれしそうについてきた。

母親はご機嫌さんで、希和に地紋の見事な真っ赤な着物を着せた。
もちろん肩揚げなしで。

「ちょっと派手じゃないか?」
流行のレンタル着物の子が多いなか、確かに希和は目立った。

父親の苦言に、母はむしろ胸を張って言った。
「十三詣りって本来こうゆうものよ?写真も撮りましょうねー。希和ちゃん、日本人形みたい。ほんと、かわいいわー。」

うん。
確かにかわいい。

舞妓のように結ってもかわいいだろうが、トラウマで髪を上げたくない希和は、今回はまるで市松人形のように髪を切りそろえて垂らしていた。

もちろん、市松人形よりはるかにべっぴんさんでかわいいが。