夢が醒めなくて

「どういうこと?希和、れいを知ってたんか?どこで?なんか、言われたんか?」

希和は慌てて否定した。
「違います!……目線。他の出演者さんはみんな、お兄さんを見てはるのに、公達(きんだち)の1人だけが私を見てはりました。若草色の狩衣のひと。れいさん、って言うんですか。」

……あー。
なるほど。
それは、気づかなかったな。

れいがいつものように俺にアピールしてない気はしたけれど、遅まきながらやっとプロ意識が芽生えたのかと勘違してた。

そうか。
俺じゃなく、希和を睨んでたのか。

……まったく……プロ意識の欠片もない奴だな。
呆れるけれど、笑ってしまった。
れい、らしい。

頼まれて設定した合コンでも、れいは自分は他の男に好意的に振る舞うくせに、他の女の子が俺に近づくことは許さなかったっけ。

ワガママというか……不器用な奴。
いや、違うか。
たぶん、長い年月かけて、れいは俺に素直に甘えることはできなくなってしまったんだろう。
かわいそうだけど……もう、しょうがないよな。

俺を白い目で見てる希和に気づいて、慌てて咳払いした。
「ごめん。嫌な気持ちにさせて。……どうもやる気がないというか……早く結婚相手見つけて退団したいらしいわ。プロ意識ないにもほどがあるよな。客をビビらせたらあかんなあ。言うとくわ。」

無理矢理あっけらかんと明るくそう言ったら、希和はため息をついた。
「……れいさんに同情します。ほんと、最悪ですね、お兄さん。」

希和はそう言って、プログラムに目を落とした。
そして、ページをめくって、れいを探した。

「逸美(はやみ)レイラさん。すごく美人ですね。……誠実なヒトと幸せになれはるといいですね。」
そう呟くと、希和は俺から、わざわざ少しだけ距離をあけるように座り直した。

……嘘だろ。

不潔!
近寄らないで!
くっついてたくない!
無言の希和からそんなオーラを感じて、俺は言葉を失った。



京の街に桜と観光客が溢れかえると、我が家の周辺道路は車と観光バスで身動きできなくなってしまう。
毎年この時期、父親は出勤時間を早め、母親は車での外出を辞め、俺は電車を使うことが増える。

だが、今年はちょっと事情が違った。
家族がみんな、あまり出かけなくなったのだ。

俺自身も、今年は花見の誘いもほとんど断ってしまった。
……実のところ、希和の信頼回復につとめたくて、ほとんど家で過ごした。