夢が醒めなくて

……怪しい。
てか、義人氏もハッキングとかしたことあるってことよね?
何やってるんだろう。
よくわかんないヒトだわ。

確かにイイヒトだと思うけど……倫理観は、ちょっとずれてる気がする。
感化されないようにしなきゃ。


「これは、まだ内緒の話やけど……希和、入試、トップの成績やったらしいわ。新入生代表の挨拶せなあかんと思う。まあ、がんばれ。」
車を降りる前に、義人氏はサラッとすごいことを言ってくれた。

「嘘~~~~!てか、何で!?」
何で、内緒の話を義人氏が知ってるの?

「ほんまやで。……何でって、俺の出身校やもん。親しかった教師も事務職もいるし。……入試もやけど、読書感想文の府の最優秀賞も知れ渡ってて、期待されてるみたいや。よかったな。」

そう言われて、私は戸惑った。
よかった……のか。
何だか、不思議な気がした。

正直なところ、入試は合格するだろうと思っていた。
でも、試験会場でいかにも裕福なお家の子たちばかりで……自分がココに混じることがすごく場違いな気がした。
別世界というか、育ちが違うというか……。

もちろん、今はお父さんやお母さんのおかげで、何不自由ない生活をさせてもらってるけど、しょせん付け焼き刃。
……施設育ちの孤児でしかない私が、こんな子達と一緒にやっていけるのだろうか。

黙りこくった私に、義人氏は言った。
「俺も新入生代表やってん。……うち、今はあんな家やけど、父が成功してのし上がった成金やからさ、小学校でも塾でもネチネチ嫌味言われて。それで家庭教師について受験勉強してんけど、さすがにトップ合格したら、誰も正面切って成金ってイジメんくなったわ。……社会的弱者の欠点を指摘するのはイジメやけど、自分より優秀な人間の悪口を言うのはただの妬みやからな。イジメたほうが自分の価値を下げるだけや。……せやし、希和も、胸はって堂々としとき。」

義人氏の言葉には、説得力と優しさが溢れていた。
……だからこのヒトは……お正月まで休まずに私に受験のノウハウを叩き込んだのか。

目標は、合格じゃなくてトップ合格だったということ?
私が、卑屈にならないために?
施設育ちの孤児……どうしても消えない事実を隠すのでも、塗り替えるのでもなく、それ以上の付加価値を私に付けてくれようとしたのか。

胸がいっぱいで言葉が出ない。
「……お兄さんの妹にしてもらえて、よかった。」
やっと出たのは、私にとっては最上級の感謝と敬愛のつもりだった。

でも義人氏は、照れくさいのか、微妙な間と表情のあと
「さ。降りようか。お母さんが手ぇこまねいて待ってるわ。熱烈歓迎と祝福の嵐やで。」
と、軽口を言って、車を降りた。