夢が醒めなくて

私が上巻を読んでる間に、待ち切れなかったらしく、お母さんは下巻を読み始めた。
「そうそう!そうなのよね!うん!そうなのよ!ペトロニウス、やっぱり素敵だわ~~~~。」

……お願い、それ以上、言わないでね。
ネタバレしないでね。

そんな気持ちでハラハラしながら、カウチに2人で並んで座り、寄り添って読んだ。
幸せな夜だった。



月曜日にの午後にはもう合格通知が速達で送られてきた。

早っ!

「希和~!おめでとう!」
学校に迎えにきた義人氏は、大きなピンクの薔薇の花束を私にくれた。

は、恥ずかしい!

「ありがとう。」
そう言って、慌てて車に乗り込もうとした。

けど義人氏は、私の手を引いて、逆に小学校に入って行った。
「え?何で?」
「え~。担任の先生に報告しな~。」

義人氏は超ご機嫌だったけれど、ただでさえ目立つのに花束まで持たされて……恥ずかしすぎてとても顔を上げられなかった。
すれ違う児童みんなが凝視してる……あああああ。

義人氏は職員室で担任のみならず、教頭先生にまで報告すると、続いて施設にも寄った。
施設の児童や先生がたの通り一遍な祝福を受けた後、義人氏は言った。
「ありがとうございます。……あ。そうだ。これ、父から預かって来ました。新しく奨学金制度を立ち上げる企画をしているようです。」
……げんきんなもので、今度は心からの期待と喜びの表情と声が挙がった。

車に戻ってから、義人氏は言った。
「今は公務員試験は難関やからな。照美ちゃんが本気で受験するなら、自分で問題集を勉強するだけやと厳しいと思う。せめて1年は専門の学校で教わったほうがいい。啓也くんも……あの腕は伸ばすべきやと思う。」

「啓也くん?」
照美ちゃんはともかく、啓也くんって何か目指してたっけ?
驚いてそう聞くと、義人氏はちょっとためらってから、言葉を選んで言った。

「啓也くんな、ハッキングに近いことしてる。……悪戯とか金とかじゃなくて、美幸ちゃんが心配なだけみたいやけど、美幸ちゃんの所属会社のネットワークに不正アクセスしてた。あんな家庭用の古いパソコンでそんなことできてしまうんは、ちょっと信じられへん腕やわ。」

え?

「それって、犯罪じゃないですか?」
驚いてそう尋ねると、義人さんは苦笑した。

「うん。まずい。さすがに自覚あるらしくて、外国のサーバーを経由してるけど、施設のパソコンは誰でも使えるから……俺が見て気づくぐらいやし、他の誰かが見つけても、まずい。せやし、ちゃんと勉強する機会と啓也くん専用のパソコンを与えるべきやと思って。」

ん?

「……何か、それ、おかしくないですか?お兄さん、犯罪を止めてませんよね?」
「うん?そう?……そうだね。バレないようにもっとやれ、って言ってることになるね。はは。まあ、今は危うすぎるからね。」

義人氏は暢気にそう言って、夕食の話に切り替えた。