夢が醒めなくて

「東京は雪が積もってるみたい。由未お姉さん、大丈夫でしょうか。」
京都は幻想的にちらつく程度だけど。

「……大丈夫や。恭匡(やすまさ)さん、北海道にいてはったから雪道は慣れてはるし。」

北海道?

「東京にずっとお住まいだと思ってました。」
そう言ったら、義人氏はうなずいた。

「基本、東京生まれの東京育ち。天花寺(てんげいじ)家も他の公家と一緒に、明治維新で京都から東京に移らはったから。でも、恭匡さんは中学高校を北海道の全寮制進学校で過ごさはって、大学から東京に戻らはったん。……せやのに、めっちゃ京都好きねん、あのかた。」
「原点回帰?血が呼ぶんでしょうか?」

何の気なしにそう言ったんだけど、運転してる義人氏は表情と言葉を失ったかのように、ひたすらフロントグラスを見つめていた。
……何か、変なこと、言ったかな?

「じゃ、行ってらっしゃい。緊張せんと、リラックスな。時間が余ったら何回でも見直しや。受験番号と名前、忘れんときや。」
何度も何度も同じことを繰り返す義人氏に、苦笑した。

「はい。いってきます。」
義人氏があまりにも緊張してるから……私は却って落ち着いていられた。

テスト問題は何だか簡単に思えた。
わからない問題がない気がした。
……ああ、そうか。
義人氏自作の模擬テストは的確にヤマを当てちゃったみたい。
見たような問題ばかりだ。
すごいヒトだわ、ほんと。

4教科のテストを終えて、門を出てしばらく歩くと、義人氏が車で待っていた。
「終わりました。できました。たぶん、大丈夫です。」

そう報告すると、青白かった義人氏はホッとしたらしい。
「……お疲れ様。がんばったね。」
そう言って、ほほ笑んでくれた。

「私より、お兄さんががんばってくれたんやと思う。……テスト問題、ほとんど見覚えあるのばかりで、びっくりした。」
そう言うと、義人氏はうれしそうな顔になった。
「マジで?へー。さすが、俺。」

軽い。
でも、軽口からは想像できないぐらい、義人氏は親身になってくれた。

……感謝している。
私は改めてお礼を言おうと、義人氏を見た。

すーっと通った鼻筋も、形のいい唇も、強い意志を感じる瞳も、ムカつくほど整っていた。
かっこいい。
感謝は素直に伝えられても、これは言いたくないな。

「ありがとう。ずっと、受験勉強につきあってくれて。」

そう言ったら、義人氏の口元が緩んだ。