夢が醒めなくて

「あら。そんなに賞が欲しかったの?じゃあ小学生らしい本にすればよかったのに。『たけくらべ』は大人でも難しいわ。……そう。希和ちゃん、背伸びしてがんばったのね。」
そう言って、お母さんはそっと私の目元を指でおさえた。
いつの間にか、涙が滲んでいたらしい。

「賞をもらうと、学校の先生が喜んでくれるから……お父さんやお母さんにも喜んでほしかったのに……」

いや、充分、祝福してくださったのはわかってる。
なのに私はそう言って、ぽろぽろと涙をこぼした。

驚いたお母さんは私を抱き寄せた。
「希和ちゃん?すごーく喜んでるわよ?伝わらなかった?お父さんも、あんなにお酒が過ぎるの、珍しいのよ?」

くすんと、鼻をすすってお母さんの顔を見上げた。
笑顔も瞳も、聖母のように慈愛に満ちていて……心が温かくなる。
「……ごめんなさい。」

お母さんの優しさで、私は新たな涙を浮かべた。
「謝ることなんかないわよ?」

そう言ってもらったけど、私は首を横に振った。
「こんなことなら、地区の表彰式にも、府の表彰式にも、学校を休んで行けばよかった。お父さんにもお母さんにも、来てもらえばよかった。」
……自惚れて、意地をはって、私……馬鹿だ。

「そうね。これからは、どんな小さいことも教えてくれたら、すごくうれしいな。いいことも、悪いことも。」
お母さんはそう言って、私の髪を撫でた。

「悪いことも?」
ばつが悪い気がして、そう聞いてみた。

お母さんは、至極まじめにうなずいた。
「たぶんね、希和ちゃんは今まで全部独りで受け止めて独りで消化してきたと思うの。すごくしっかりしてるし、偉いなーって思うけどね、これからは、私達にも分けてみて?そしたら、いいことは倍以上の喜びに増えて、悪いことは半分以下に減ってしまうと思うから。もしかしたら、解決したげられるかもしれないし。」

……解決に向けて尽力してくれはりそうで怖い気もするけど……私は、お母さんの瞳に操られるままにうなずいた。




由未お姉さんのセンター試験と私の中学入試は同じ土曜日だった。
その日は、お母さんが朝からカツサンドやキットカットで縁起を担ぎたがった。
お父さんまでが緊張してるらしく何故か握手で激励されて、見送られた。

「なんか、希和が来てから、お父さんがマイホームパパになったみたいで面食らうわ。」

義人氏はそう揶揄っていたけれど、まんざらでもないといった雰囲気だった。