夢が醒めなくて

「どしたん?」
「……あんまりイイ噂ない。」
啓也くんはボソッとそう言った。

「美幸ちゃんの事務所の話?」
「事務所も、所属タレントも。」

……そっか。
枕営業とか、妙に美幸ちゃんが開き直ってたのを思い出した。

「売れるといいね。」
「ああ。成功してほしい。」

遠い世界の話すぎて、私たちは漠然と美幸ちゃんが芸能界で成功することを願うしかなかった。
とても現実感のない、願いだけど。

携帯が震えた。
義人氏が迎えに来てくれたのだろう。

啓也くんも一緒に教室を出て、校門へと出た。
あれ?
いつもの、義人氏の大きな四駆のベンツじゃなくて、もっと偉そうなお父さんの四角いベンツが停まっていた。
車から降りたのは、お父さんの秘書の原さん。

「お帰りなさい。希和子さん。……啓也くん、でしたね。ご一緒にどうぞ。お送りします。」
「いや、すぐ近くやから、いいです。じゃあ、希和ちゃん。バイバイ。」
「うん。バイバイ。」

逃げるように足早に去ってく啓也くんを見送ってから、車に乗り込んだ。
「お兄さん、今日は用事でもできはったんですか?」 
そう尋ねると、原さんは、薄ら笑いを浮かべてうなずいた。
「みなさま、希和子さんを、お待ちです。」

……え?

「今日、何かありましたっけ?」
重ねてそう聞いたけど、原さんは微笑を浮かべて黙殺した。


車が停まったのは、祇園?
「お嬢さま。よぉおこしやす。この度は、おめでとうございます。」

……京都は1月15日まで松の内だけど……今のって、年始のご挨拶とは違うよね。
よくわからないので曖昧に会釈だけして、仲居さんと原さんの後についてお茶屋さんへと進入した。

「失礼します。お嬢さまがお見えになりました。」
そう声をかけてから、仲居さんが襖を開けた。

わっ!

思った以上に広くて明るい大座敷に、ずらりと並んだ色とりどりのお着物の舞妓さん達。
目がチカチカするほど艶やかだ。

「女将。娘の希和子や。花街について社会勉強したいらしいわ。よろしゅう。」
たぶん上座には金屏風。
既にお酒を召し上がってるらしく頬の赤いお父さんが上機嫌でそう仰った。

「希和ちゃん。どうして言ってくれなかったの?あなたの読書感想文、府で最優秀賞をいただいたんですって?すごいことなのに!お祝いさせてくれないなんて。」

隣のお母さんがそう言って、ハンカチで目頭を抑えた。

涙ぐんでらっしゃるらしい。