夢が醒めなくて

その夜は、遅くまで百人一首に興じた。

たぶん興味ないだろうお父さんまでつきあってくださった……あまり上手くないけど、必死で札を読んでくださった。

お母さんは、学校のカルタ大会で優勝したことがあると仰っていた。
反応が早い!
けど、老眼でとっさに字が見えない、札の位置が覚えられない……と、嘆いてらした。

逆に義人氏は、記憶力が抜群。
必死感はないのに、札をコンスタントに取っていた。
何でもこなすんだなあ、ほんとに。

得意なはずだった私は、お母さんの気合いに完全に負けていた。

「……何回やっても、いい勝負だな。」
さすがに読み疲れたらしく、お父さんが控えめにそう仰った。」

「みんな30枚以上必ずとってるもんなあ。」
義人氏も飽きたらしい。

「希和ちゃん、由未より強いわね。うれしいわ。また遊びましょう。」
本当はもうちょっとやりたそうなお母さんも、2人の様子で諦めたらしい。

「由未は、闘争心がないかならな。恭匡(やすまさ)さまは、お強いんじゃないか。来年のお正月にはご一緒できたらいいな。」
お父さんの言葉にお母さんは、目に見えてご機嫌になった。

まだよくわからないけれど、お父さんは自分の息子とそうかわらない年齢の恭匡さんを「さま」と呼ぶ。
どんなかたなのだろう。

「3月には来はるわ。穏やかで上品なヒトやで。」
義人氏も恭匡さんにはいつも好意的な気がする。

「……お兄さんとどっちがイイ男?」
そう聞いたら、義人氏は変な顔をしていた。
何だかゴチャゴチャ言ってたけど、結論はよくわからなかった。

イケメンなのは間違いなく義人氏なんだろうけど……お父さんだけじゃなく、義人氏も恭匡さんに対して複雑な想いがあったりするのだろうか。



翌日は、朝から大賑わいだった。
「ずっと付き合わなくていいから。私と一緒にご挨拶だけして引っ込めばいいからね。」
昨日のとは違うお振り袖を着せながら、お母さんはそう言った。

「はい。あの、これ……」
「うん。私が昔、作ってもらったの。しつけ糸ついたまんまだったから、綺麗でしょ?」

……20年ぐらい前の着物ってこと?
あでやかな熨斗と四季の花がゴージャスな着物。

でも、私が着させてもらっていいんだろうか。
せめて最初は由未お姉さんが着るべきだったんじゃないのかな。

「気にしないで。由未は寒色系のほうが映えるから、私の着物は似合わないの。希和ちゃんは、よく映えるから、うれしいわ~~~~。」
お母さんはそう言って、わざわざ肩揚げしてくださっていた。

あとで義人氏に聞いたら、人間国宝の作品で着物と帯で軽く一千万を超える逸品だったそうだ。
「希和の御披露目のつもりなんやろ。」

義人氏はこともなげにそう言った。