夢が醒めなくて

大薗まゆさんは、私と義人氏に視線を何度か往復させてから、ニッコリほほ笑んだ。
「希和子ちゃん?しっかりしてるのね。はじめまして。受験するんや。がんばってね。」
「ありがとうございます。」

そして、別れしなに、私の耳許で小声で囁いた。
「自信を持って。竹原くん、希和子ちゃんが一番大事だって。」

びっくりして、まゆさんを見た。
ひらひらと手を振って、笑顔で拝殿へと送り出された。

……私、そんなにわかりやすく拗ねた顔をしたんだろうか。
てか、一番大事って……。
うれしいようなくすぐったいような……。

てか、義人氏、そんなことをまゆさんにどういう状況で言うんだろう。
何だか、モヤモヤする。



「さっきの巫女さんも、彼女の1人?」
ご祈祷を受けて、義人氏の車に戻ってからそう聞いてみた。

義人氏は前方を見つめたまま、さらっと言った。
「いや。あのヒトには、ちゃんと彼氏いるから。」

……つまりセフレってことか。

「素敵なかたでしたね。」
そう言ったら、義人氏はニコリともせずに
「せやな。さっぱりして、気のいい先輩やわ。」
と、後腐れない都合のいい相手、と言外に言っているようだった。

せっかく気晴らしも兼ねたお出かけだったのに、私は逆にふさぎ込んだらしい。
「寄り道しよっか。どこか行きたいとこある?」
義人氏がそう誘ってくれた。

「……ない。あ。あった。粟田口刑場跡。」
以前から興味のあった場所を挙げた。

「またすごいところを。うーん。いいけど、今日はやめとこ。たぶん、道、めっちゃこんでるわ。また今度。」
「じゃあ、受験が終わったら。連れてってくださいね。」
そうお願いしたら、義人氏は苦笑していた。

「いいけど。もっとハッピーなところも、行こうな?USJとかディズニーランドとか。」
「はあ。」

興味がないわけじゃない。
でも、行ったことないから、どんなものなのか見当がつかない。
楽しいらしけれど、すごく混雑していると聞いた……。

「ほなまあ、帰ろうか。明日から年始のあいさつで、うちがめっちゃ賑やかになるやろし。今日はゆっくりしようか。」
義人氏は、残念そうにそう言った。
息抜きしたかったのは、義人氏もだったのか。

「そうですね。じゃあお正月なので、百人一首でもしましょうか。」
そう言ったら、義人氏は笑顔を向けてくれた。

「そりゃいいわ。お母さんが大喜びしはるわ。」
……お母さん、百人一首、お好きなんだ。

共通点を見つけて、ちょっとうれしくなった。