夢が醒めなくて

「初詣ぐらいは行きなさいよ。せっかく振袖作ったんだし。それに、ほら。受験なんやから天神さんにお詣りせんと。」

みんなでおせち料理をいただいた後、お母さんは、うれしそうに私に赤い振袖を着せてくれた。
十三詣りに行くまでは肩揚げするのよ……と、わざわざ肩を摘まんで縫ってあった。

「ほな、俺も。泥大島。」
義人氏は地味な茶色と灰色の細かい模様の着物を着た。

やばい。
かっこいい。

「和装、似合いますね。」
お世辞じゃなくて、本音だ。

「よく言われる。水も滴るいい男、って。希和も、よぉ映えてるわ。かわいい。」
さらっとモテ男自慢を織り交ぜつつも、私をいい気分にさせるんだもんなあ。
相変わらず、ずるい男。

義人氏は私のことを「希和」と呼ぶようになった。
たった二文字なのに、そこに親しみをこめてるのが伝わってくるから、何となくくすぐったい。
まるで魔法の言葉のようだ。
「希和」と義人氏に呼ばれるだけで、私の心は凪いだ。


お正月の天神さんは、かなり賑わっていた。
「昇殿して祈祷してもらうで。」
張り切る義人氏を慌てて止めた。

「お詣りとお守りだけでいいですって!」
でも義人氏は私の手を取って言った。
「あかん。希和は充分合格できる実力ついてるけど、由未は正直微妙やろうし。ほら、迷子になるで。おいで。」

祈祷申込所は、確かにカオスだった。
「希和。こっち。」
2人分の支払いを終えた義人氏が私に手を差し出す。

「あら。竹原くん?あらあらあら。」
すぐそばにいた巫女さんが義人氏にそう声をかけた。

「あれ?バイト?……うわ~、一気にありがたみなくなったわ。」
義人氏がふざけてそんなことを言った。

「何でーよ。逆でしょ。現役京大生が巫女さんよ。」
頬をちょっと膨らませて、義人氏に甘えるように巫女さんはそう言った。
……見るからに2人は仲良しだった。

「妹さん?かわいい。受験生なの?」
突然私に笑顔を向けた巫女さんは、けっこう感じのいい人に見えた。

「うん。妹と彼女が受験生やから。外野にできるんは応援だけやし自己満足やけどな。」
義人氏はそう言ってから、私の背中に手を回して紹介してくれた。
「希和。この偽者の巫女さん、俺のゼミの先輩。大薗まゆさん。まゆさん、彼女が希和子ちゃん。かわいいやろ?」

……えーと、紹介する時は、目上のヒトを優先、それに身内を後回しにすべきじゃなかったっけ?
てか、義人氏の今の言い方だと、私は由未お姉さんと同じ妹のくくりに入れてないんだ。
何となく違和感を覚えた。
所詮、他人なんだけどさ。

「はじめまして。希和子と申します。兄がお世話になっています。」

ことさらに、兄と言ってしまった。