夢が醒めなくて

思えば、この施設は、私にとってはかけがえのないホームだった。

ココと小学校しか、私は知らない。
視野の狭い私が、本当に、他人さん達と上手くやっていけるのだろうか。
不安だ。

「希和ちゃん。泣かんといて。学校で、また逢えるやん。」
照美ちゃんが私にしがみついてそう言ってくれた。

「……そうや。またいつでも逢えるやん。ココにも来ればいいし、照美ちゃんもうちに遊びに来たらいいし。」
義人氏が横からそう言った。

照美ちゃんは苦笑していた。
……たぶん、それはないだろう。
ハッキリとは言わないけれど、照美ちゃんは義人氏が私を選んだことにまだ納得していないから。
照美ちゃんの義人氏への憧れは恋という概念に育つ前に打ち砕かれたのだと思う。

「照美ちゃん。がんばろう。」
小学5年生の照美ちゃんが公務員試験を受験するまで少なくとも7年の歳月が必要だ。
この期間、照美ちゃんが大きく道を外れることなく、真面目にコツコツ勉強を積み上げられますように。

そして、みんなが……施設のみんなが、幸せになれますように。
私もがんばるから。
竹原さん家のお荷物にならないように、努力するから。

ふわりと肩を抱かれた。
細くて柔らかい温かい腕。
見上げると、義人氏母が涙を浮かべてほほ笑んでいた。




「ここが、希和子ちゃんのお部屋よ。」
義人氏母が案内してくれた部屋は、南側に面した明るい白い部屋だった。
ガラスの出窓は舞台のように大きくて、白いレースのカーテンが風にそよいでいた。

お姫さまの部屋だ。
ポカーンと口を開いて見渡してしまった。

明るいナチュラルウッドと白で統一された夢々しい家具。
ベッドには天蓋が!
本当にこんなのあるんだ。

ルーバー式のクローゼットをそっと開けてみると……あれ?
てっきり衣服が入ってると思ったのに、教科書や参考書が並んでいた。

「そこはね、書架なの。義人が、希和子ちゃんは本が好きやから、書斎だけじゃなくて、自室にも本を置きたいやろうって。お洋服はね、こっちの扉。ウォークインクローゼットにしちゃった。これからたくさん揃えていきましょうね。」
義人氏母はそう言って、クローゼットのすぐ横の扉を開いた。

なるほど。
クローゼットの奥にもう一回り大きなクローゼットを作ったって感じなのかな?

「ありがとうございます。」

そう言うと、義人氏母は、眉毛をぴくりと上げた。