夢が醒めなくて

「……いや。希和子ちゃんは、気負う必要ないしな。俺も由未も、もともとは系列の私大に行く予定やったんや。恥ずかしいけど、2人とも友達につられて受験したん。まあ、俺はともかく由未は卒業してもたぶん就職する気もないやろうに、受験だけ頑張らんでもええのになあ。」

義人氏はそう言ったけれど、私は首をかしげた。
「2人とも?……ですか?」

受験って、つられてするものじゃないよね?
人生かかってるって意気込みで受験するんじゃないの?

照れくさそうに義人氏は言った。
「うん。……まあ、俺の場合は、友達と一緒の大学に行くためじゃなくて、どうせ友達と離れるなら俺も、より上を目指そうか、って感じやけど。」

なるほど。
主体性がないわけではないのかな。

「せやしな。希和子ちゃんは、俺らを目標にする必要はないんや。勉強は適当にして、好きな本を読んだり、やりたい習い事とか部活とかに励んでもいいし……悪い友達と自堕落に遊びほうけてもいいで?まあ、男関係はほどほどに……いや、ぶっちゃけ、遊ばんといてほしいけど。」

義人氏はそう言って、最後は苦笑していた。
冗談っぽいけど本気で言ってるのは伝わってきた。
妹さんの恋愛がよっぽど堪えてるのだろう。

私は小さくうなずくと、再び問題文に目を落とした。
とりあえず、目の前の算数から、がんばる!


私が受験勉強に没頭してるうちに、全ての書類上の手続きが滞りなく済み、私は竹原 要人(かなと)夫妻の養子になった。
11月の連休に、竹原夫妻と義人氏が揃って施設を訪れた。

ネットで妙な知識を仕入れている啓也くんは、義人氏父のことを知っていたらしい。
表向きの輝かしい経歴も、多少ダークな噂も。

「希和ちゃん。大丈夫か?」
最後に啓也くんにそう聞かれたけれど、私は何とも答えられなかった。
わからない。
でも、できることなら、信じたい。

私を里子ではなく養子にしてくださったのは、義人氏父だという。
……まさか、漫画か小説のように、実は私が義人氏父の隠し胤だということはないと思うけれど……慈愛の気持ちは何となく感じる気がする。

だから、今は、飛び込もう。
新しい世界に。
この、一般家庭とはおよそかけ離れたお家に。



「長い間、お世話になりました。」
施設長や職員の先生がたにそうご挨拶してから、共に育った兄弟姉妹達1人1人と言葉を交わした。
私は美幸ちゃんと違って、誰とでもすぐに仲良く盛り上がれる子ではなかったし、みんなで遊んだりテレビを観るよりも、1人で読書してばかりだった。

だから、施設を出るといっても、後ろ髪を引かれることもないと思っていた。

でも、普段あいさつしかしなかった子に対しても、小さな想い出が蘇り、泣いてしまった。