夢が醒めなくて

運動会が終わり、秋が来た。

毎日わざわざ算数を教えに来てくれてた義人氏が、珍しく1日来なかった。

「東京行って来たわ。これ、お土産。」
翌日やってきた義人氏が、お菓子を差し入れしてくれた。
何となく、ちょっと淋しそうに見えた。

「どうかされましたか?」
算数を見てくれてても、何となく心ここにあらず、って感じ。

「あー、うん。妹に希和子ちゃんのこと、報告してきたわ。」
義人氏は無理やり笑顔を貼り付けてそう言った。
あまりにも不自然で、少し不安になった。

もしかして、妹さん、私のことを不快に感じてはる?
……ううん、気に入らなくて当たり前だ。
自分の留守中に、勝手に知らない子が家族の仲間入りするなんて、まるで自分の居場所を奪われたように感じるんじゃないかな。

「あの、妹さんが反対なら、私、やっぱりお世話になれません。」
すっかり手続きが整った今頃になって言うことじゃないかもしれない。
でも、誰かお一人でも受け入れてくれないなら、やはり、行けない!
悲壮な決意でそう言った。

すると義人氏は、
「ごめん!違う!そうじゃないから!」
と、慌てて謝って頭を下げてくれた。

……違うの?
じゃあ、何で、そんな顔してるの?
わけがわからず義人氏を見た。

義人氏は、しきりに反省して、言った。
「不安にさせてごめん。そんなんちゃうねん。恥ずかしいねんけどな……妹と……妹が世話になってる家主がうまくいっててんわ。たぶん妹の受験が終わったら結婚すると思う。覚悟してたつもりやったし、相手にとって不足なしやのに、兄としては、複雑な心境でね。まだ若いのに結婚って早すぎるやろー?って。……まあ、いいんやけど。あいつが幸せなんやったら。」

……なるほど。
またシスコンモードどっぷりだったのね。

ほんと、義人氏って……。


いつまでもしょんぼりしてる義人氏はかわいいを通り越して、多少うざいほど落ち込んでいた。
「受験されるんですか?妹さん。東京で?」

そう尋ねると、義人氏はちょっと笑った。
「うん。妹の親友がめちゃ真面目で優秀な子でね。一緒に東大受けるんやて。妹の相手も東大卒やから、背伸びしてるんかもな。」

東大!?
義人氏だってすごいのに、さらに上?

えーと……この兄妹のレベルまで、私、本当に頑張れるんだろうか。

思わず息を飲んだ。