夢が醒めなくて

結局、その日も、翌日も、私はテスト問題と格闘することになった。

4教科だけど、それぞれ何パターンものテストが準備されていた。
採点しながら分析と対策を講じて、義人氏は言った。

「思った通りやな。希和子ちゃん、学校での成績はいいやろ?せやし、国語、社会、理科は問題なし。少し慣れたら点数とれるわ。問題は、算数やな。鶴亀算とか、知らんよな?」

つるかめざん?

「……知りません。」
「うん。俺も知らんかった。学校で習わへんねんもん。わかるわけないわ。でも、大丈夫。教えるから。」

義人氏は、やたらニコニコしていた。
めんどくさい、とは思ってないらしい。

「よろしくお願いします。」
そう頭を下げると、義人氏は照れくさそうにうなずいた。


夕方、義人氏母は施設へたくさんのケーキをお土産に持たせてくれた。
「昨日の残り物じゃないから、安心して食べてもらってね。」

そして、義人氏は私にたっぷりの宿題を押し付けた。
「無理せん程度にやったらええしな。根(こん)、詰めんときや。」
……と言われても……どうやら私は、課題を放置できる性格じゃないらしい。

その夜から、寝しなの読書は受験勉強に変わった。
「ほな、決めたんか?希和ちゃん。義人さんとこでお世話になるん?」
啓也くんにそう聞かれて、私はうなずいた。

「それで、突然受験勉強?……大変やね。」
美幸ちゃんが東京へ行ってしまってから、何となく疎遠になってしまった照美ちゃんが含みを持たせてそう言った。

「……うん。間に合わへんかもしれんけど、やってみる。不合格でも、勉強すること自体は人生の無駄にはならへんやろし。」

……私、もしかして、既に義人さんの影響を受けてるかも。
単純だわ、我ながら。

自分の変化を恥入って黙ってると、照美ちゃんが言った。
「希和ちゃんらしいね。でも、いいと思う。少なくとも、全く勉強せんと遊びほうけてるよりは、ずっといいわ。」

どういう意味だろう。

「悪い仲間との遊びに疲れたんやろ。」
啓也くんが半笑いで照美ちゃんにそう突っ込んだ。

照美ちゃんは、ちょっと肩をすくめてうなずいた。
「そんなところ。ジュースとか奢ってくれるし最初は楽しかったけど、何か、男とかアイドルの話ばっかりでつまんない。かといって、美幸ちゃんほど男慣れしてへんし、ほんとに、ぐだぐだと夢語りだけ……あ……ごめん……啓也くん……」
照美ちゃんの言葉に、みるみる啓也くんがしおれた。

啓也くん、やっぱり美幸ちゃんのこと、忘れるつもりないのかな。
てか、美幸ちゃんの男関係なんか、今さら過ぎるというか……むしろ、今までよく啓也くん、隠してたな。

改めて、かつての啓也んの心中を察して同情した。