夢が醒めなくて

「夕食は軽くしてな。お茶漬けでいいぐらいやわ。希和子ちゃん、ほな行こう。」
義人氏はそう言って、椅子から立ち上がった。

「えー。でも、せっかく希和子ちゃんが来てるのに。」
不服そうな義人氏母を置いて、私たちは温室から出た。

「びっくりさせたな。ごめん。ちょっと、やり過ぎやったな。」
「いえ。私のほうこそ、急に泣いてごめんなさい。」
そう言ってから、義人氏に言った。

「あの、受験勉強、教えてくださるって言ってましたよね?早速やけど、いいですか?」
さっき、打ちのめされた無力感。
打破するためには、自分に自信をつけるしかないと思う。

私に、今、できることは、受験勉強。
当面の目標は、義人氏の母校合格!
気合いを入れてそう頼んだ。

義人氏は、ニッと笑った。
「もちろん。準備してあるで。予習も完璧。えーと、でも、希和子ちゃんのお部屋にはまだ机が届いてへんらしいから、俺の部屋に来る?」

……これが、つきあいたてのカップルなら、ドキドキする誘い文句なのかもしれない。
そんな風に考えた自分に苦笑しつつ、私はうなずいた。


義人氏の部屋は、まるで、ホテルかモデルルームのようだった。
よく言えばシンプルでスタイリッシュ……でも、単に生活感が全くなくて殺風景な部屋だと思う。

「義人さんって、趣味とかないんですか?」
何らかのコレクションなり、ポスターなり、漫画なり……プライベートルームなんだから、個性があって当たり前のはずなのに。
施設の相部屋でだって、みんな、自分の好きなものを並べて居心地のいい空間を整えるのに。

「趣味なあ、実は、ない。何でも興味あるけど、ある程度身につくと満足するから、趣味には至ってないんやと思うわ。強いて言えば、ヒトを喜ばせること。と、勉強?」

あー、なんか、納得。
そういうヒトよね、義人氏。

「……勉強は、飽きませんか。」
「うん。飽きひん。てか、際限ないから。資格試験みたいに資格取ったら終わりじゃないやん?」
義人氏は、そう言ってから苦笑した。

「けっこう、つまんない奴やろ?俺。無個性で。……だから一芸に秀でた奴とか、1つのことに一生懸命なヒトは応援したくなる。」

……いや、無個性だとは思わない。
でも、義人氏は、こんなに恵まれたヒトなのに、自分自身にコンプレックスを抱いてるのは何となく伝わってきた。

「希和子ちゃんの受験も、応援するから。じゃ、始めようか。」
義人氏はそう言って、準備していたらしいテスト用紙を私に手渡した。

「え?いきなり、テストですか?」
驚いてそう聞くと、義人氏はにんまりと笑った。

「だって、今の希和子ちゃんの学力を知らないと、非効率的やし。まずは全教科テスト!」

……義人氏、鬼かも。

意外と。