夢が醒めなくて

「義人!あなたは後。希和子ちゃんが、食べにくくなっちゃうでしょ!」
「……いえ、私を待たなくても。気にせずいただきますので。どうぞ。」
何となく、私の残り物を食べさせるのも申し訳ない。

言葉通り、私は、義人氏の食べた跡をフォークですくって口に運んだ。

……濃い!
これ、美味しい!

「モンブランって、こんなに美味しかったんですね……」
そう言ったら、何故か泣けてきた。

……何だろう、これ。
まるで別世界だ。

義人氏がイイとこのぼんぼんなのは、わかってたつもりだった。
なのに、今、改めて思い知らされている。
こんなにも、このヒト達は裕福で、贅沢で……私は……何者でもない。

義人氏は黙ってハンカチを持たせてくれた。
そして、義人氏母は、私の手にそっと自分の手を重ねて、軽く握った。
細い白い指は冷たそうなのに、とても温かくて……
別世界から、わざわざ私の手を引き上げようとしてくれるのだと感じた。

この素敵な女性を、母と呼ぶなんて恐れ多いけれど、それが望みなら……がんばろう。
義人氏から手渡されたハンカチで涙を拭いて顔を上げた。

「はい。紅茶。これは……えーとベリーベリーベリー。」
ハンカチと交換とばかりに、義人氏は私にティーカップを差し出してくれた。
私は黙ってハンカチを返して、繊細な透かし細工の入ったティーカップを受け取った。

少し色は薄いけれど、香りも味も濃厚だった。
苺、ブルーベリー、ラズベリー、クランベリーといった、ベリー系の香りが甘酸っぱくて美味しかった。

「……ごめんなさいね。ちょっと浮かれ過ぎて……これじゃ、まさに成金よね。」
義人氏母は、しょんぼりしてそう言った。

「そんな!……でも、もったいないです。絶対食べ切れへんし。」

義人氏は、もっともらしくうなずいた。
ますます義人氏母は、しゅんとしてしまった。

結局、本当に胸焼けがするまで食べた。
がんばったけれど、それでも全てを味見することはできなかった。

でも、私の好みの傾向はわかったそうだ。
「希和子ちゃんは、伝統的なフランス菓子が好きみたいやな。」
「……そうなんですか?」

よくわからない。
でも、1つのケーキなのに、いろんな食感と味と香りとが複雑に入り交じってるケーキたちがすごく気に入った。

「俺も好きやで。酒にも合うし。」
義人氏はそう賛同したけれど、義人氏母は
「私は、嫌いじゃないけど、毎日は食べられないわ。濃すぎて。美味しいけど。」
と、言った。

「いや。毎日食ってたら……太るやろ。」
義人氏がそう言うと、義人氏母は頬を膨らませて拗ねた。

……ほんと、可愛いヒト。