夢が醒めなくて

案内されたコンサバトリー、つまり、ガラス張りの温室には、ロココ調というのだろうか……貴族趣味な装飾過多の繊細なテーブルと椅子。

そして、テーブルを埋め尽くすようにケーキを並べたいくつものお皿。
イチゴショートだけで6種類もある。
チョコレートケーキにいたっては3つの大皿に、えーと、21種類?

すごい……。

「さすがに、これはやり過ぎやろ。希和子ちゃんが呆れてるで。」
義人氏がそう言うと、義人氏母は華奢な肩をすくめて可愛く笑った。

「だって、絞れへんかってんもん。とりあえず、今日だけ。ね?希和子ちゃんは、どんなケーキが好き?」

「よくわかりません。何でも好きです。」
「ほな、適当に。イチゴのケーキ。どれが口に合うか、試してみ?」
「あら、全部食べなくていいのよ。一口ずつ。でないと、胸焼けしちゃうかも……」
「あ~、そやな。希和子ちゃんの残したんを、お母さんと俺で食ってくか。」

2人は、やいやい言いながら、私のお皿にイチゴのケーキを6つ置いて差し出した。
「……いただきます。」

美味しくないわけがない。
どれもこれも、めちゃくちゃ美味しかった。

でも、こうして食べ比べると、なるほど、その違いはよくわかった。
スポンジじゃなかったり、スポンジの中に何かが入ってたり……味だけじゃなく、歯触りも食感も違った。

驚いたのは、スポンジがグジュグジュに洋酒の混じったシロップを吸ったケーキ。
「これ、何ですか!?すごく美味しい。」
そう聞くと、義人氏母はにっこり笑った。

「えーと、苺のズッパね。」
「ズッパ?」
「苺のスープって意味や。……あ、何か、嫌な記憶、思い出した。」

義人氏がそう言って、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「私も思いだした。苺のスープ。あまり美味しくなかったわね。やっぱり苺は甘いデザートとしていただきたいわね。」
義人氏母もそう言ってから、私に説明してくれた。

「仲良しのシェフがね、新しいメニューの開発に熱心なのよ。でも苺のスープは、何だか青臭くて、後味もよくなかったのよ。」
……うん、想像したくないかも。

「次は、どれがいい?」
「モンブラン!……いろんな色があるんですね。」

黄色いのから茶色いのまで。
茶色も薄いのから濃いのまで。

「俺、これ、好き~。和栗。」

そう言って、義人氏は、私が手を付ける前に、フォークで暗い黄色のモンブランをひとすくいして口に運んだ。