耳元で囁かれた言葉は、上手く歌える方法でもなんでもなくて、

友香は「え、」とつい声をあげてしまう。


「何?
アドバイスになってない?」

部長はにこりと笑う。


なんだかこの笑い方、恵利子に似てるかも。


そんなことを思いながら、

「いえ、ありがとうございます。
参考にさせてもらいます」

と返事をした。


「ほんとにそう思ってる?なんか顔、ひきつってるけど」


部長は友香の顔を指差しながら言った。

友香は慌てて顔に手を持っていく。


「…ひきつってました?」

「かなりね。

…まぁ、初めてのソロなんだし、だまされたと思ってやってみなよ」


笑いながら、ぽんっと頭に手を乗せられる。
部長がよくやってくれる癖だ。

軽く叩かれるときもあるけれど、こうされると友香はいつも安心する。

直接部長に伝えたことはないが、今日もまた、友香の緊張は少し和らいだ。


「ありがとうございます」

もう一度お礼を言う。


今度はちゃんと笑えていたのではないだろうか。

部長も「どういたしまして」と言って笑い返してくれた。