次の日、友香は少し早めに学校に来て、音楽室で最終チェックをしていた。
ピアノで音をとりながら、声の調子を整える。
音楽室は学校の隅のほうにあるので、人気はなくひっそりとしていた。
友香の声だけが、静かにあたりに響いている。
静かすぎることに、少し不安になりピアノを弾くのをやめた。
「大丈夫かなぁ…」
たくさん練習したとはいえ、初めてもらったソロは緊張する。
もしかしたら、気が向いて昇も見にきてくれるかもしれない。
友香は少しだけ、来てくれるのではないかと期待していた。
もう一度ピアノで音をとって声を出した。
そうしていると、がらっと音楽室の扉が開く。
びっくりして出していた声が裏返り、むせてごほごほと咳が出た。
「ぶ、部長?」
「音がしてたから来てみれば、やっぱり宮内だったんだ」
入ってきたのは部長で、顔には笑みを浮かべている。
「やっぱり初めてのソロだし、緊張してるんでしょ?」
カバンを教室の隅に避けてある机の上に乗せ、部長はピアノの横まで歩み寄る。
「上手く歌えるいい方法、教えてあげようか?」
「えっ、そんな方法あるんですか!?」
友香が聞くと、部長は待ってましたと言わんばかりの笑顔を向けた。
そして、ちょっとこっちに来て、と手招きして友香の耳元で小さく囁いた。


