文化祭1日目が終わる頃、自分の仕事も終わり、ほかのクラスの出し物を合唱部の友達と見て回っていた友香は、誠に呼び止められた。


「宮内さん、ちょっといい?

…このあいだの、ことなんだけど」


控えめに、こちらの様子をうかがうように。

言われてすぐに、なんのことかは分かった。

それと同時にこみあげる、どうしよう、という気持ち。

できることなら、このまま何もなかったかのように過ごせたら、と友香は思っていたのだ。


急にテンションのさがった友香を見て、友達は友香の耳元でささやいた。


「友香、どうかしたの?この人と何かあった?」

「あ、大丈夫。クラスメートだから。
ちょっと話あるから先行っててもらっていい?」


不審そうに友香と誠を交互に見た友達だったが、「わかった」、と言ってその場をあとにした。

友達が行ってしまってから、友香は誠と向き合った。


「宮内さん、ここじゃあれだし、場所かえる?」

「…うん」


誠は顔こそ笑っているものの、なんだかこれから自分が言う返事のことを、分かっているように感じた。

それを見ると友香の胸はつきんと痛む。

今から誠に言う言葉を考えて、ますます胸が苦しくなった。