今になってようやく、バンド演奏は終わり、
次の催し物に入るようだった。
それまでの準備の時間が、休憩時間になるようで、ばらばらと何人かが体育館の外に出ていった。
それでも、がやがやとした人の話す声は体育館内で響いていた。
お互いの声も聞こえやすくなった。
「バイトの、話なんだけど…」
誠がまたゆっくりと言葉を発する。
やはり、視線はこちらではなく、1つ前の椅子の足元に向かっていた。
昇は口を閉じたまま、誠の次の言葉を待つ。
じっとその横顔を見ていると、誠が顔を歪め、目を閉じた。
そして頭をもっと下まで下げる。
「河合に…バイトのこと言ったの、俺なんだ」
「そっか」
「…だから、ごめん。それに、避けてた」
なんとなく、そのことは分かっていた。
それに、済んだことにとやかく文句をつけるつもりもない。
「俺、さ、そんな気にしてないし…気にするなよ」
ごく軽く、誠が気にしないようにと返事をする。
謝ってくれたことが嬉しかった。
誠は安心したように顔をあげ、ようやくこちらを見た。
「さんきゅ、昇」
それには笑って返す。
ようやく、2人の間にあった壁が壊れた気がした。


