話し掛けてくれたことに、1人、少しだけ喜んでいたのだが、
期待した次の言葉は聞けなかった。
仕方なくまたステージのほうに視線を戻す。
相変わらずバンド演奏は続き、
ほかの音はなかなか耳に入ってこない。
響く重低音には多少慣れてきたが、気は滅入る一方だ。
昇は小さくため息を吐き、立ち上がろうとすると、突然誠が口を開いた。
その声は小さすぎて、この体育館では耳に届きにくい。
「…なに?悪い聞こえにくい」
眉をしかめて聞き返す。
「…ごめん」
今度ははっきりと、そう聞こえた。
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