結局その日、
シフト制というにも関わらず、
昇はずっと会計の係をしていた。

見て回る、
ということをしたいわけでもなかったので、
まあいいか、と昇はずっと教室にいた。

途絶えることなくやってくる客の顔を見ながら、ただぼーっとその場をやり過ごす。

夕方になり、1日目が終わる頃、
「お疲れさまー、明日もよろしくー」などという声が教室に響く。


「はぁ…」



軽くため息をひとつついて、昇は体を伸ばした。

体の節々からピキッという音が鳴った。

とりあえず、仮装はしないですんだ。


「笹木くんお疲れさま」

恵利子が昇の背中を思いっきり叩き、
ばしんと気持ちいいくらいの音が鳴る。

いってぇ、
と昇は顔をしかめ、叩かれた場所に手をやった。

うらめしげに恵利子に目をやると、恵利子はにこりと笑みを浮かべる。


「今日1日会計をしてくれたから、明日は何もしなくていいわよ」

「…当然だろ」

ぼそっとつぶやいた声は、恵利子に届いたのか、恵利子は眉間に皺を寄せる。

着ている軍服のせいだろうか、いつもより迫力があるように感じられる。

「でも、仮装、してなかったじゃない。今からでも遅くないけど?」

昇は何も言えずに、押し黙った。

「まあ、今日も終わったことだし、いいけどね」

今度こそ「お疲れ」と言って恵利子は教室から出ていった。