泣いたのは久しぶりだ。


重いまぶたに手をやりながら昇は思った。

今日は、文化祭。

布団の中から時計に手を伸ばすと、もう間に合わない時間。

しかし、休むと友香が責任を感じるだろう。

間に合わないなら遅刻していこう、そう思い、
焦ることなくゆっくりと準備をした。

学校に着くと、そこはいつもと違う雰囲気で、
いきいきとした声があちこちで飛びかっていた。

人混みをよけるように、間をくぐって玄関に向かう。

玄関に辿り着いたところで荒谷に声をかけられた。


「おぉ笹木、来たのか。お母さんの具合はどうだ?」

「たいしたことはなかったから大丈夫です」


あたりさわりなく返事をして昇はその場をあとにした。

今日は屋上にもおそらく人がいるのだろうなと思い、そのまま教室に足を運ぶ。



「あっ、笹木くん来たんだ!さぼると思ってたのに」

教室に足を踏み入れて最初に声をかけてきたのは恵利子。

その声につられて友香も顔をあげた。

恵利子は軍服のような格好をし、友香はメイドの格好をしていた。

少し驚いたが、たいして慌てず教室の中に目をやる。

ふと、視線があって、友香は気まずそうに視線を泳がせた。


「笹木くんのシフト、まだだから今はいいわよ。
それとも手伝ってくれる?」

恵利子は昇と友香の視線のやりとりに気付いたが、
それに触れないように話を進める。


「あぁ、手伝うよ」

カバンを邪魔にならない所に置きながら、昇は返事をした。



「俺、仮装しないからな」

何か衣裳をあさりはじめた恵利子に、昇はぴしゃりと言い放った。

不服そうな顔を恵利子は見せたが、衣裳を昇に着せることは諦めたようだ。