友香たちのクラス企画の喫茶店のほか、
おばけ屋敷や、迷路、焼そばの販売など、
文化祭といえば、という店が開かれた。
友香のシフトは午前に入っており、
有無を言わさず恵利子にあの衣裳を手渡された。
もちろん、そのときの恵利子の顔は
「当然着るでしょ?」
というような顔。
着ないわけにもいかないが、まだ心の準備ができていない。
友香は
「その前にちょっとトイレ行ってくる」
と少しの間、逃走した。
まだ少し早い時間なのに、
私服のお客さんや、明らかに保護者だろうというお客さんが校内に点在し、
いつもとは違う雰囲気だ。
仮装をすることには、少し気はのらないが、こういった雰囲気は嫌いではない。
校内をぶらぶらしながら、時間を稼ごうと思ったが、
窓の外に昇の姿を発見して、急いで玄関に向かおうとした。
しかし、走りだそうとした矢先、誰かに道を阻まれてしまい、それは叶わなかった。
「とーもーかっ!トイレに行くんじゃなかったっけ?」
「えっ、恵利子、なんでここに…?」
「遅いから探しに来たの。で、トイレにはもう行ったのよね?」
「え、えっと…まだ…」
恵利子は腕組みをし、
「さっ、戻るよ」と友香に言い、無理矢理ひっぱって教室に戻る。
そのとき、もう1度窓の外に視線をやったが、
昇の姿はもう、どこにもなかった。


