結局、昇は授業の間には帰ってこなかった。

学校終了のチャイムが鳴り、友香は息を落とす。

今日は文化祭の前日ということもあり、
生徒はまだほとんど残っており、友香もまた部活の練習に行こうと席をたつ。

ちょうどそのときに、昇が教室に入ってきた。

昇の母親が倒れたことを知ってるのは、友香だけだから、
ほかの生徒が昇に気をとめることはなかった。

昇がさぼるのはいつものことだ。

それに、今はみんな明日の文化祭のことのほうが重要だった。


「…昇」

おそるおそる、小さな声で昇に声をかけると、
昇はゆっくりとこちらに顔を向けた。

「えっと、大丈夫?」

言葉を選びながら、友香は問い掛けた。

でも、昇は何も言わない。

まるで、昔に逆戻りしたみたいだ。

近くに、なれたと思ったのに。

それともそれは、友香が感じていただけなのかもしれない。


「ねぇ、今から話せない?」


昇は少し迷っているようだった。

やっぱりだめなのか。

爪先に視線をやり、じっと返事を待つ。

きっと今日は断られるのだろうと思い、謝ろうと顔をあげると


「…いいよ」


意外な返事が戻ってきた。

「また屋上?」

「あ、うん。ほかの場所でもいいよ、あんまり人がこないとことか」

教室でほとんどの人が明日の文化祭の準備にかかっているといっても、
やはり教室では話せない。

あまり目立たないようにと、2人は静かに教室をあとにした。