近くの病院とは、母の職場の近くの病院のことだろう。
そこまで昇は走った。
病院に足を踏み入れると、
病院独特の嫌な匂いが鼻をかすめた。
受け付けに行き、病室の番号を聞いて急ぐ。
部屋に入ると母が点滴をつけて、横になっていた。
眠ってはおらず、扉のがらっという音にこちらを向く。
「え、昇どうしたの?学校は?」
昇の姿を見て母は驚き、すぐに学校のことを聞いてきた。
「学校で、倒れたって聞いて…」
なるほど、というような顔をして、母は腕に刺された点滴を昇に見せた。
「疲労、だって。
たいしたことはなかったんだけど、
一応入院することになっちゃって…今、点滴中」
「そっか」
「…文化祭、見にいくつもりだったのに行けなくなっちゃったわ」
少し寂しそうに母が言うから、昇の表情もまた暗くなった。
こんなになるまで仕事して、倒れて…
黙ったまま、そこに立っていると
「昇、母さん大丈夫だから学校もどりなさい?」
「…でも」
「ただの疲労なんだから、心配ないわよ、ね?」
「わかった」
心配ではあったが、母のいうとおり、病室をあとにした。
そういえば友香もさっき「戻ってきてね」って…
くしゃりと頭を掻き、うつむきながらまた、学校までの道を戻った。
今度は、ゆっくり歩きながら。


