どうにか恵利子の手をかいくぐり、
教室を逃げ出した友香は昇を探しに屋上へと走った。

教室にいないのだから、きっと屋上にいるはず、
そう思って走ってきた屋上には、昇の姿は見えなかった。

息を整えてもう1度見渡す。

「あれ?」

期待していたぶん落胆は大きかった。

すると、階段を上ってくる足音が友香の耳に届く。

振り向いて見てみると、そこにいたのは誠だった。

「あれ、有川くんどうしたの?
あっ、もしかして有川くんも仮装から逃げてきたとか?」

誠の表情がなんだかいつもと違うような気がした。

ゆっくりと誠の口が開く。

「…宮内さん」

「ん?」

「…好き、なんだけど」

「え…?」

「宮内さんが」



今、なんて言った?



突然の誠の言葉に頭が回らない。

有川くんが、私を、好き?

頭のなかで、友香はもう1度復唱した。

しばらく思考を巡らせていると、


「…宮内さん」

と、誠から声がかかる。

「は、ぃ…」

どうしよう、顔見れない。

そう思い友香はなるべく誠のほうを見ないようにと、
足元に目をやる。

「…返事」

言われて、体が強ばるのを友香は感じた。

誠にちらりと視線を向けると、少し苦笑したように

「文化祭の時に、聞かせて」

と言い、屋上をあとにした。

屋上をあとにする誠の背中を見送って、
どうしよう、
という感情がすぐに友香を襲う。

今ここに昇がいなくてよかった、そう思った。

もう、誠は教室に帰っただろうと思い、ゆっくりと足を動かす。

屋上の扉を押し開くと鈍い音がした。