その頃、昇は友香が思っていたとおり、屋上に足を運んでいた。

いつもの定位置ではなく、友香がいつも座っている場所に。

校庭でも当然、文化祭の準備を進めているクラスがあり、
昇はその声を聞きながら眠りにつこうとしていた。

しんと静まり返っている場所よりも、少しの雑音があったほうがよく眠れる。

うとうとしていると、扉がばんっと音をたてて開いた。

その音に起き上がると、どうやらそれは友香だったらしい。

走ってきたのか呼吸が少し荒くなっていた。

ここで声をかけるのも気がひけた昇は、
友香が屋上をあとにするまで待つことにした。

もしここに登ってきた場合は、仕方ない。

友香はきょろきょろと視線を泳がせ、

「あれ?」

小さくつぶやいた。

それと同時に、また誰かが屋上にあがってくる足音が昇の耳に届く。


誰だろう?


その疑問はすぐに解決され、
それとともに見つからないようにしなければ、
という気持ちがうまれる。

そこに現われたのは誠だったからだ。

こんなところで見つかってしまえばますます誠との仲が険悪になってしまうだろう。

今は見つからないようにと、ことの成り行きを息を詰めて見守ることにした。

しかし、
先程まであった校庭からの雑音もなぜか消えてしまったかのように、
自分の呼吸音が耳に届く。

「あれ、有川くんどうしたの?
あっ、もしかして有川くんも仮装から逃げてきたとか?」

友香が誠に問い掛ける。


しばしの沈黙―



「…宮内さん」

「ん?」

「…好き、なんだけど」

「え…?」

「宮内さんが」

誠が放った言葉に友香は固まる。

だが、それは昇も同様だった。



まるで時間が止まったかのように、その一瞬3人を静寂が包んでいた。