「なに?」


隣に腰をおろす友香に、昇は無表情で聞く。


「プリントにもう書き込んだ?」

「プリント…」

「ほら、昨日もらった進路の」

「あぁ、あれか。まだ書いてない」


昇がそう言うと友香は顔をほころばせた。


「私もまだ。
みんなは適当にって言ってるけど、
私はちゃんと考えたくて」


昇はどこに行っても結局は同じだから、
という理由で書いていないだけなのだが、
そのまま黙って聞いていた。


「私ね、歌手になるのが夢なの。
親はどうせ反対するだろうから言ってないけど」


「ふーん」


「笹木くんの夢は?」

突然の問い掛けに、
なんと言おうか悩んだが、口から出てきたのは


「夢なんてみるだけ虚しいじゃん。結局は馬鹿みるだけだよ」


だった。

つい言ってしまった言葉に、
昇は後悔した。

友香の表情が消えたからだ。


「せっかく生きてるんだから、
好きなことしたほうが楽しいと思わない?」


友香はそれだけ言って、もとの昇降口の上に戻っていった。


後悔はしたが昇はそのあと友香に話し掛けることはなかった。