おそらくまだ帰ってはこないだろうが、じっと何もせずに椅子に腰掛けていた。

何から切り出そうかと思考をめぐらす。


深く息を吐き出して、椅子に座りなおした。


そのまましばらく待っていると、玄関から鍵を差し込む音が響く。


反射的にそちらに目をやり、部屋のなかに入ってきた母の姿を視界におさめた。


「おかえり」

「あら昇、ただいま。
待っててくれたの?」


体を伸ばしながら、母が荷物を机の上に置いた。

昇はその置かれた荷物に目を向けながら、軽く頷いた。


「ちょっと話があるんだ」

「話?」

「たいしたことじゃないんだけど…」


机の上の荷物に目を向けたまま言うと、母は少しだけ口元を緩めて椅子に座った。


「何?」


机に腕を起き、聞く態勢になった母にちらりと視線をやり、昇は下唇をぎゅっと少しだけ噛む。